私の個人的関係(あとで説明)から,日本赤十字社の方言の拡張活用(方言ネーミング)を紹介します。
(クリックで外観)
一つは,大阪市中心部を南北に走る御堂筋の南端にある「まいどなんば献血ルーム」(大阪市中央区難波)//www.wanonaka.jp/namba/です【写真1】。「まいど」は感謝の気持ちを表す有名な大阪方言ですね。「毎度おおきに」が略されて前半部が残ったものとも言われます。同ルームは,平成22(2010)年9月に開所し,今月で4周年です。大阪方言の例は,この連載でも何回も取り上げた(リンクは末尾:代表的なもの)ように,方言の拡張活用例の種類・数ともに,おそらく世界一だと思います。井上史雄著『変わる方言 動く標準語』(2007年,筑摩書房)p.73のグラフにも示されています。そのなかから「まいど」を選んだ理由を,同ルーム所長さん(献血ルーム設置準備委員会事務局から携わられ,事情をよくご存知)が教えてくださいました。「『まいど』ということばは,今でも大阪を象徴する代表的な言葉(方言)」とのことです。表記は,ローマ字書きなど最終の3案からひらがなが選ばれました。
もう一つは,岩手県の盛岡赤十字病院(盛岡市三本柳)の広報誌『なじょだす』です【写真2】。前半「なじょ」は古代語の「なでふ」(発音は「ナジョー」)の残存で,「どのように」の意味です。後半の「-だす」は丁寧の意の文末詞です。ここでは,盛岡方言で,患者さんに自覚症状を尋ねる「(お加減)いかがですか?」の意味です(実際に発するときは,文末に上昇イントネーションが掛かります)。同誌の表紙にも説明があります。病院として患者さんに語りかける最初のことばを誌名に選んだわけです。患者さんが医師に心を開いて症状を説明するよう誘導するため,方言で語りかけるのが有効だとの研究成果もあります。大病院でも,このように細やかな工夫がされています。
私は,岩手県立大学宮古短期大学部で学生赤十字奉仕団の顧問をしています。平成21(2009)年に正式に活動を開始して現在6年目です。日本赤十字社特別社員でもあります。献血のお手伝いや東日本大震災の被災者支援のなか,このような用例に接しました。
《謝辞》日本赤十字社大阪府赤十字血液センター「まいどなんば献血ルーム」,とくに同ルーム所長さんには,記事作成にあたり,特別のご厚意を賜りました。あつく御礼申し上げます。
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