鈴木マキコ(夏石鈴子)さんに聞く、新明解国語辞典の楽しみ方

新明解国語辞典を読むために その2 第1回

筆者:
2021年7月14日

みなさんに、新明解国語辞典を読むためのこつをお知らせしました。さて、ここからはわたしが、これまで読んで見つけた特徴ある物件を、(張り切って)ご報告します。

①「爆発物件」

新解さんを読んでいて驚くのは、時として頁の中で大噴火が起きている事実です。

p.1396「ふんか【噴火】」

そうです。溶岩はどろどろ、火山灰もばんばん降ってくる。ちなみに、「火山」のかぞえ方はご存じでしたか、一座・一峰・一山・一岳です。それでは一体、どの位の火山が辞書の中で爆発しているか、見てまいりましょう。

p.42「あみだくじ【阿弥陀籤】」

あのー、阿弥陀様でしたか。それは、確かに「あみだ」ですし、光背って、

p.515「こうはい【光背】」

こういうことですし、光明は、

p.518「こうみょう【光明】」

こういうことです。えー、あれはただの縦線と横線じゃないの? 阿弥陀様の光明みたいにして、くじを作って、お菓子買ったり、賞品分配したり、最近だとPTAの役決めに使っていいのでしょうか。ああ、驚いた。

「ねぇねぇ、みんな知っていた?」

と、思わず人に言いたくなるし、ただなんとなく、「あみだくじって、新解さんはどう言っているのかな」と思っただけなのに、答えは、想像の十倍以上の重さでした、という感じです。

p.1183「にちじょうせい【日常性】」

で、睡眠はどうなの? と、思いました。変化・発展が欲しければ、何か習うといいです。

p.744「しょうせつ【小説】」

え、そういう目的なの? 知りませんでした。

p.744「たいがしょうせつ【大河小説】」

ほら、見てごらん、遠くで火山が二座大爆発しているよ。

p.1187「にめんせい【二面性】」

あら、今度は少し近くで一峰爆発よ。

p.1685「わかい【若い】」

それなら中年というのは、どういうことかというと

p.1001「ちゅうねん【中年】」

「六十代の前期」も中年だと新解さんはおしゃっています。え、そうなの?

 

(つづく)

筆者プロフィール

鈴木マキコ ( すずき・まきこ)

作家・新解さん友の会会長
1963年東京生まれ。上智大学短期大学部英語学科卒業。97年、「夏石鈴子」のペンネームで『バイブを買いに』(角川文庫)を発表。エッセイ集に『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』(以上、角川文庫)『虹色ドロップ』(ポプラ社)、小説に『いらっしゃいませ』『愛情日誌』(以上、角川文庫)『夏の力道山』(筑摩書房)など。短編集『逆襲、にっぽんの明るい奥さま』(小学館文庫)は、盛岡さわや書店主催の「さわベス2017」文庫編1位に選ばれた。近著に小説『おめでたい女』(小学館)。

 

編集部から

『新明解国語辞典』の略称は「新明国」。実際に三省堂社内では長くそのように呼び慣わしています。しかし、1996年に刊行されベストセラーとなった赤瀬川原平さんの『新解さんの謎』(文藝春秋刊)以来、世の中では「新解さん」という呼び名が大きく広まりました。その『新解さんの謎』に「SM君」として登場し、この本の誕生のきっかけとなったのが、鈴木マキコさん。鈴木さんは中学生の時に出会って以来、長く『新明解国語辞典』を引き続け、夏石鈴子として『新解さんの読み方』『新解さんリターンズ』を執筆、また「新解さん友の会」会長としての活動も続け、第八版が出た直後には早速「文春オンライン」に記事を書いてくださいました。読者と版元というそれぞれの立場から、これまでなかなかお話しする機会が持ちづらいことがありましたが、ぜひ一度お話しをうかがいたく、このたびお声掛けし、対談を引き受けていただきました。「新解さん」誕生のきっかけ、その読み方のコツ、楽しみ方、「新解さん友の会」とは何か、赤瀬川原平さんとの出会い等々、3回に分けて対談を掲載いたしました。その後、鈴木さん自身による「新解さん」の解説記事を掲載しております。ひきつづき、どうぞお楽しみください。