タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(59):Continental Schreibmaschine

筆者:
2019年6月20日
『Allgemeine Rundschau』1925年8月6日号
『Allgemeine Rundschau』1925年8月6日号

「Continental Schreibmaschine」は、ドイツのヴァンダラー社(Wanderer-Werke)が1904年に発売したタイプライターです。ザクセン地方のケムニッツ=シェーナウにあったヴァンダラー社は、それまで自転車やオートバイの製造・販売をおこなっていましたが、多角化の一環として、タイプライターの設計・製造にも乗り出したのです。

「Continental Schreibmaschine」は、45キーのフロントストライク式タイプライターです。円弧状に配置された45本の活字棒(type arm)は、フロントパネルの向こう側に収められていて、オペレータからは見えにくくなっています。各活字棒は、対応するキーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、「UM=SCHALTER」と記されたシフトキーを押すことで、プラテンが持ち上がって大文字が印字されます。

「Continental Schreibmaschine」のキー配列は、基本的には、ドイツ国内向けのQWERTZ配列となっていますが、フランスへの輸出を想定していたのか、フランス語の小文字もいくつか収録されています。キーボードの最上段は、大文字側に"ℳ%&()_!/^+が、小文字側に23456789é`=が並んでいます。次の段は、大文字側にQWERTZUIOP§が、小文字側にqwertzuiopüが並んでいて、右端にシフトキーがあります。その次の段は、左端にシフトキーがあって、大文字側にASDFGHJKL;:が、小文字側にasdfghjklöäが並んでいます。最下段は、大文字側にçYXCVBNM?½'¼が、小文字側にºyxcvbnm,.-¾が並んでいます。大文字の「Ä」「Ö」「Ü」は、いずれも「"」との重ね打ちが必要で、重ね打ちには、本体左下のバックスペース・レバーを使います。また、数字の「1」は小文字の「l」で、数字の「0」は小文字の「o」で、それぞれ代用することが想定されていたようです。

下の広告によれば、「Continental Schreibmaschine」は、活字にフラクトゥール(𝔉𝔯𝔞𝔨𝔱𝔲𝔯)を搭載したモデルも特注可「Auf Wunsch liefern wir die Maschine auch mit deutschen Typen」と記されています。ただ、等幅のフラクトゥールというのは非常に読みにくく、タイプライターには不向きな活字だったと考えられます。

Adolf Reinecke『Die deutsche Buchstabenschrift』(1910年)巻末広告より
Adolf Reinecke『Die deutsche Buchstabenschrift』(1910年)巻末広告より

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。