改良策としてワーグナーは、タイプホイールの上に取り付けた「つまみ」ではなく、別の方法でタイプホイールを回転させることを考えました。タイプホイールの手前にU字型のフックを配置し、指を入れてフックを左右に動かすことで、タイプホイールが回転するようにしたのです。指フックの上には文字盤を置き、どの位置がどの活字に対応しているか、一目でわかるようにしました。また、タイプホイールの側面には、28個×4列の活字を埋め込み、各列は、記号および数字、小文字、大文字、イタリック体の大文字、が印字できるようにしたのです。
改良版のタイプホイール式ビジブル・タイプライターの特許は、1888年11月20日に成立しました(U.S. Patent No. 393318)。さらにワーグナーは、キーボードでタイプホイールを回転させる印字機構に挑戦します。U字型の指フックでは、高速な印字は期待できず、「Crandall New Model」にかなわなかったからです。
キーボードでタイプホイールを回転させるためには、タイプホイールをかなり小型化しなければなりませんでした。キーを指先で押す程度の力では、大きなタイプホイールを回転させるだけのトルクが出ないからです。タイプホイールを小型化すると、今度は印字の方法が問題となりました。プラテンが活字側に倒れてくるやり方では、小型タイプホイールは吹き飛んでしまいます。ワーグナーは、小型タイプホイールをプラテンに向かって打ち下ろすやり方へと、印字機構を完全に改めてしまいました。これでは「Crandall New Model」の二番煎じです。そこでワーグナーは、インクリボンを無くすことを考えました。小型タイプホイールの左右に、インクを染み込ませた布製の円筒を配置しておき、小型タイプホイールが回転すると、活字にインクが塗られるようにしたのです。
けれどもこの方法には、致命的な弱点がありました。同じ文字ばかりを連続して打つと、印字される文字がどんどん薄くなってしまうのです。ワーグナーは、小型タイプホイール式ビジブル・タイプライターの特許を、1889年12月19日に申請し、1891年6月23日に取得しました(U.S. Patent No. 454692)。しかし、ワーグナーのタイプホイール式ビジブル・タイプライターは、弱点が克服されなかったこともあり、結局、実用化には至りませんでした。また、これと並行して、ワーグナーは、複数のタイプライター特許を取得(U.S. Patents Nos. 411361and 414095)しているものの、いずれも実用化には至らなかったようです。
(フランツ・クサファー・ワーグナー(7)に続く)