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曲のエピソード
スコットランドはエジンバラ出身のポップ色豊かなロック・バンド、ベイ・シティ・ローラーズ。彼らは世界各国で大人気を博したが、ここ日本における受け止められ方も想像を絶するほど熱狂的だった。筆者は、彼らが最も人気のある海外のアーティストとして多くのファン――とりわけティーネイジャーの女子――の心をガッチリと掴んでいた頃を間近で目にした、時代の証言者のひとりである。
中学3年生の時、クラスメイトに熱狂的なファンのK子さんがいた。ベイ・シティ・ローラーズへの傾倒ぶりは純粋過ぎるほど純粋かつ他のものが全く手に着かないほど無我夢中だったと記憶する。ある時、八戸市公会堂でベイ・シティ・ローラーズの“フィルム・コンサート(意味が解らない方々のために念のためにご説明すると→ステージ上に設置された大型スクリーンで、あるアーティストのライヴの様子を収めたフィルムを上映する催し。もちろん有料)”が行われるという情報をキャッチしたK子さんは、その日から猛然と準備に取り掛かった。何をしたかと言えば、ベイ・シティ・ローラーズのトレードマークであるタータン・チェックのファッション(上下はもちろん、長いマフラーやベスト)を買い集め、更には彼らが愛用していたハイカットのバスケットシューズまで揃えるという熱の入れよう。そしていよいよフィルム・コンサートが開催されるというその日、彼女は公然と(?)欠席した。熱烈なファン心理、ここに極まれり。天晴れである。
動画サイトがネット上に溢れ返っている今では考えられないことかも知れないが、1970年代半ばは好きな洋楽のアーティストが“動く”ところを目にするだけでも――プロモーション・ヴィデオすらそれほど多くなかった時代――奇蹟だった。だからアーティスト本人がステージに立たない(立つはずのない/苦笑)フィルム・コンサートが近くのホールで行われるというだけでも千載一遇の機会だったのだ。筆者はそれを観に行ったわけではないので詳細は判らないが、恐らくチケットにはシート番号が記載されていなかったのでは、と思う。何故なら、前日K子さんは「明日は早く行っていい席を取らなくちゃ!」と張り切っていたからだ。あの時の彼女の(文字通り瞳の中に星を散りばめたかのような)キラキラとした眼差しを、今でも鮮明に思い出すことができる。たとえそれが“白い布地=スクリーン”に映し出された仮の姿ではあっても、エジンバラから遥か遠く離れた青森県の一市にベイ・シティ・ローラーズが“来て”くれるだけで天にも昇る気持ちになれた。そして筆者は、そういう時代に思いを馳せる時、胸と目頭が熱くなってしまう。情報過多の現代では決して味わえない、純粋な気持ちと洋楽アーティストに対する抑え切れない溢れる思いが切な過ぎて。
今回、ベイ・シティ・ローラーズの代表曲中の代表曲である「Saturday Night」についてあれこれ調べてみたところ、驚くべき事実に遭遇した。それは、彼らにとって初の全米チャート制覇となった記念すべきこの曲が、当時イギリスでは全くヒットしていない(!)ということ。ところが、アメリカ同様にこの曲がナショナル・チャートでNo.1の座を射止めた国が他にもうひとつだけある。それは、アメリカの隣国カナダ。その理由もまた、自分で掘り下げていくうちに“なるほど!”と膝ポンできるものだった。それについては本編の中で触れる。
ベイ・シティ・ローラーズにとっての初ヒットは1971年の「Keep On Dancing」で、全英チャートでいきなりトップ10入りを果たして最高位No.9.それ以降も同チャートでトップ10入りしたシングル曲が7曲もあり――うち6曲がトップ5入り。2曲のNo.1ヒットを含む――そして遂にこの「Saturday Night」で念願のアメリカ制覇を果たすのだ。No.1の座にあったのがたったの1週間だけだったとは言え、この曲はゴールド・ディスク認定となった。更に言えば、彼らが全米チャートを制した唯一の曲でもある。
なお、1975年当時、ベイ・シティ・ローラーズの曲は日本でもラジオから頻繁に流れ、シングル盤やこの曲が収録されているアルバム『ROLLIN’(邦題:エジンバラの騎士/←泣ける邦題!)』(1974)は売れに売れた。近年、古い洋楽ナンバーが再び脚光を浴びていることもあってか、2004年には「Saturday Night」のCDシングルが発売されている。
曲の要旨
土曜の夜にはロックンロールに合わせて踊り明かそう。激しく脈打つ君と僕の鼓動のリズムに合わせて土曜の夜に踊ろうよ。土曜の夜は君とのデートの約束。今から待ち切れないよ。土曜の夜には昔ながらのロックンロールのショウを観に行って、そこで徹底的に踊ろう。土曜の夜はパーティを楽しむに限るよ。土曜の夜は朝まで僕の愛する彼女と踊るつもりさ。何たって土曜の夜だからね!
1975年の主な出来事
アメリカ: | ウォーターゲート事件の裁判で判決が下る。 |
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日本: | 沖縄県の本土復帰を記念する沖縄国際海洋博覧会が開幕。 |
世界: | イギリス保守党がマーガレット・サッチャーを同党初の女性党首に選出。 |
1975年の主なヒット曲
Pick Up The Pieces/アヴェレージ・ホワイト・バンド
My Eyes Adored You/フランキー・ヴァリ
Thank God I’m A Country Boy/ジョン・デンヴァー
Sister Golden Hair/アメリカ
Get Done Tonight/KC&ザ・サンシャイン・バンド
Saturday Nightのキーワード&フレーズ
(a) S-A-T-U-R-D-A-Y night
(b) good ole +名詞
(c) have a ball
(d) all the little things that ~
ここ数日、喉がガラガラである。台風一過でいきなり空気が乾燥してきたから、というのも理由のひとつだが、今回、この「Saturday Night」を採り上げるにあたり、数ヶ月前に入手しておいた日本盤シングルを毎日毎日それこそ朝から晩まで大音量で聴ききながら(いつものように)歌い踊り続けてきたからである。そして筆者はひとりでに叫んでいた。「盛り上がるぅ~!!! 今聴いてもぜーんぜん古くな~い!!!」――傍目から見たらかなりアブナいオバさんである(じつはつい先日も、関西に本拠地がある某中古レコード屋さんの横浜支店の店長さんに「泉山さん、まるっきりノリが関西のオバちゃんと一緒ですわ」と言われたばかり/笑)。そしてこれには自分でもビックリ仰天してしまったのだが、じつに35年ぶりに聴いたというのに、歌詞を一言一句、寸分違わずに記憶していた! 中学時代にベイ・シティ・ローラーズのレコードを1枚も持っていなかったというのに……!
それほど当時はいつでもどこでもこの曲が流れていたように記憶している。
先日、恒例の(苦笑)レコード・コンサートを拙宅で催した際、筆者と同い年でプロのラッパーの下町兄弟 a/k/a BANANA ICEが日本盤シングルのジャケ写を手に取るなり「この曲でSaturdayのスペル覚えましたよ!」とウレシハズカシ笑みを浮かべて言った。その瞬間、筆者はまた絶叫モード。「ビンゴーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」――じつは筆者は同世代の洋楽愛好家と一緒にこのシングル盤を聴く機会があったなら、どうしてもその言葉を引き出したかった。否、そのために長らく日本盤シングルを探していたと言っても過言ではない。ご参考までに、手元にある日本盤シングルのジャケ写にプリントされた“時代の雰囲気”を充分に伝えてくれるキャッチ・コピ―を転載してみる。曰く――
ジャケ写の上部分:
イギリスが生んだ5人の新しきヒーロー、
ローラーズが遂に世界制覇を果たした、これは歴史的大ヒット・シングル!!
ジャケ写右下部分:
S-A-T-U-R-D-A-Y!
さァ、みんなで歌おう!
土曜の夜はローラーズと大騒ぎ!
――どうです、この気合いの入りっぷり! 更には、タイトル「サタデー・ナイト」のポップな日本オリジナルの文字フォントにも一発でヤラレてしまった。当時のベイ・シティ・ローラーズの担当ディレクターさんの思い入れの深さがこのシングル盤1枚をとってみてもヒシヒシと伝わってくるのだ。スバラシイ!!! 今回カタカナが多いのは「サタデー・ナイト」の日本盤シングルを大音量で聴きつつジャケ写を眺めているせいだろう(じつに単純な性格だと自分でも思う)。
そしてもうひとつ、中学時代には全く気にもしていなかったある点に気付かされた。それは、この曲が“アメリカ英語発音で”歌われていること。それも、かなり極端なアメリカ発音(ex. タイトルにある“Saturday”が[t]ではなく[t̬]と発音されている)で。これはもう、明らかに“アメリカ進出”に焦点を絞った曲である。35年ぶりにくり返して聴いてみて、筆者はその事実に驚愕した。そして1960年代も1970年代も、否、今に至るまで、アメリカ以外の国の出身アーティストたちが、いつか必ずアメリカで成功を収めてやる、という野心は変わらないのだなあ、と感慨深かった。もちろん、“Saturday”以外の単語も全てアメリカ英語発音で歌われている、これは特筆すべき事項だろう。
話が横道にズレてしまったが、いきなり(a)で始まるこの曲は、もうその時点でリスナーの耳を捉えて離さない。かなり古い言い回しを用いるなら“掴みはオッケー!”といったところ。一度聴いたら決して忘れられない。そして(a)のスペルを覚えたなら決して忘れない(苦笑)。土曜日が“Saturday”(語源はOld English=古英語で、英語的解釈は“day of the planet”……嗚呼!!!)であってくれて本当に良かったと思う。日常から解放される週末の土曜日が、仮に“Sunday”や“Monday”、“Friday”だと寸足らずだし、“Wednesday”では上手くリズムに乗らない。“Thursday”はハッキリ言って言い(歌い)づらい。つまりこの曲は、“土曜日”のためだけにあるのだ。それも翌日が日曜日という絶好の位置付け。これ以上にうってつけの“踊りに行”ったり“デートをし”たりする曜日があるだろうか? 当時、この曲で“Saturday”のスペルを覚えた人は、日本人に限らず、非英語圏の国でも無数にいたことだろう。かつて多くの人々がコニー・フランシス(Connie Francis/1938-)の大ヒット曲「Vacation」(1962/全米No.9)に登場するフレーズ“V-C-A-T-I-O-N”で“vacation”のスペルを覚えたように(筆者が中学時代には“ヴァカチョン”と覚えるのが大流行)。
(b)は「古いけれどステキな=懐かしい=昔ながらの」という意味。“ole”は“old”のくだけた言い方をそのままスペル化したもの。洋楽ナンバーのタイトルになっているものもあったと記憶する。また、“ol’”と表記される場合も。
筆者はこの曲で(c)の意味を初めて知った。当初は“have a ball(ボールを持っている)”とは一体何ぞや?!と不思議だったが、当時、辞書を調べたのですぐに得心した。“ball”は“ホテルのボールルーム(舞踏室、パーティ会場)”の“ball”と同義で「パーティ」という意味。となれば、(c)は“have a party(パーティを催す、パーティを楽しむ)”と同義であることが判る。直訳して「ん?」と首をひねるようなら、必ず辞書で調べましょう。たとえそれが「球」という知ってるつもりの単語であっても。
そしてこの曲がぜひとも「土曜日」でなければならない理由が隠されているのが(d)のフレーズ。ここでは(d)を主人公の男性が愛する恋人のために「してあげる」と歌われているのだが、(d)の中身が「何であるか」が歌われていない。ただ、主人公の男性が彼女と夜通し一緒に踊り、そして共に夜を明かす心積もりであることは全体を通して聴いてみれば判ることであり、そのことに思い至れば(d)がいわんとしていることも自ずと知れる。つまり(d)は……ズバリ「男女の営み」のあれやこれやを指しているわけ。だから何が何でもこの日は「土曜日」でなければならない!!! レスリーくん(ベイ・シティ・ローラーズのリード・ヴォーカリスト/日本人女性と結婚したと耳にしたことがあるが……)、健闘を祈る!!!
さて。秋の日はつるべ落としというが、最近、日毎に日が短くなっている。同じ夕方5時でも、真夏の盛りのそれとは外の明るさ、もとい暗さが違う。日本には四季があるが、時々“時差”もあるのではないかと本気で思ってしまう。暑いのが大の苦手の筆者は、これからが外に出掛けたくてウズウズする季節。残念ながらお勤めの方々のお邪魔はしたくないので、呑みに+踊りに行くのは決まってウィーク・デイ。だからせめて自宅で過ごす土曜の夜は、「Saturday Night」のシングル盤を大音量で流してスペルの暗記よろしくこの歌を絶叫しつつ手を叩き、足を踏み鳴らして踊っていたいのだ。キャッチにもあるではないか。“土曜の夜はローラーズと大騒ぎ!”――またとないキラキラ・キャッチである☆