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曲のエピソード
恥ずかしながら、若かりし頃にこの曲を初めて聴いた時からずっと“エリック・クラプトン名義”だとばかり思い込んでいた。クラプトンの熱心なファンの方々及びロックに造詣の深い方々なら先刻ご承知だろうが、正しいアーティスト名義は“Derek and The Dominos”。もっと間の悪いことに、手持ちの日本盤シングルは再発盤で、ピクチャー・スリーヴには思いっ切り“エリック・クラプトン”とプリントしてある(どアップの顔が赤いライトで照らされている例の写真)。もっとも、オールマン・ブラザーズ・バンドのメンバーで、わずか24歳にして不幸にも交通事故で急死してしまったギタリストのデュアン・オールマン(本名Howard Duane Allman/1946-1971)がギター演奏で「Layla(邦題:いとしのレイラ)」に参加していたことは、だいぶ前に音楽誌か何かで読んだ記憶がうっすらとあったのだが……。それでもこれはクラプトンのソロ名義のナンバーだと信じて疑わなかった。かつてここ日本でCMソングに起用された時も。「あ! クラプトンのLaylaだ!」と……。げに恐ろしきは思い込み。
バンドの活動期間は約1年足らず。しかしながら、この曲が残した印象は今なお鮮烈だ。だからなのか、「Layla」を大々的にフィーチャーしたバンド名義のアルバム『LAYLA AND OTHER ASSORTED LOVE SONGS』は、1970年の初回リリース以来、今日に至るまで全世界で何と約80種類(!)のヴァージョンがリリースされ続けている。クラプトン信奉者の旧知の音楽仲間によれば、近々、最新のボックス入りセットがまたまたリリースされるとの由。友人曰く「もうこれで最後にしてくれよって思っても、新しいヴァージョンが出る度についつい買ってしまう」。げに恐ろしき、もとい素晴らしきはファン心理。ちなみに、その友人の情報によれば、超豪華版のボックス入りセットのリリースが延期になったらしい。近年、ファン心理を煽るそうした有名アルバムの“未発表テイク満載”の豪華版が続々とリリースされているが、筆者はそれらを買ってもほとんど聴かない。予約して商品が届いた時点で安心してしまうからなのだろうか? 件の友人曰く「うちには開封していないボックス入りセットが約10個ぐらいあります……」。積読ならぬ積聴(←造語)。そして結局のところ、それ以前に愛聴していたLPやCDを聴くことになるのだ。
これはつとに有名なエピソードなので、ここで改めて触れるまでもないだろうが、念のために曲の背景をかいつまんでご説明すると、これはズバリ“不倫”がテーマである。本連載第29回で採り上げた、やはり不倫ナンバーであるビリー・ポールの「Me And Mrs. Jones」の拙稿でもチラリと言及したが、「Layla」はクラプトンの実体験に基づいて出来上がった曲だ。当時ジョージ・ハリスン(1943-2001)の奥方だったパティ(Pattie)さんに岡惚れしてしまったクラプトンが、抑え切れない恋心を託したのがこの曲。やがて彼女は離婚し、クラプトンと再婚。しかもその結婚式では、ジョージが盟友ポール・マッカートニーとリンゴ・スターを伴ってお祝いのパフォーマンスを披露したというのだから、彼の度量の広さには感服してしまう。但し、まだジョージの妻の座にあったパティさんは、この曲について事前に何も知らされておらず、いきなりリリースされた時にはかなり戸惑ったようだが……(苦笑)。タイトルこそそのものズバリの「Pattie」ではなかったものの、彼女は瞬時にしてこの曲が自分に向けて発せられた愛のメッセージだと察知したに相違ない。相手が有名ミュージシャンで、自分に向けた恋心溢れる楽曲をリリースしてくれるなんて、これ以上ないほどの幸せなんじゃないかと筆者は単純に羨ましく思う。が、当時のパティさんの複雑な心境の細部は、彼女自身にしか解らないことだろう。
筆者の音楽仲間には様々なジャンルの愛好家がいるが、クラプトンに関して言えば、大きく二分される。即ち“大好き”か“全く興味がない”のどちらか。圧倒的に前者の方が多数派なのだが(特にバンドでギターを演奏している友人)、少数派ながら後者もいる。正直に言えば、家人がそのうちのひとり。理由は……言わぬが花でしょう。よって、拙宅にはクラプトン絡みのレコードはクリームのLPと日本盤シングル、「いとしのレイラ」の再発日本盤シングルしかない。また、反クラプトン派のひとり(友人の知人)によれば、「クラプトンはAマイナーの人」だそうである。「曲の最初から最後までサビ」とも。愛憎は表裏一体であるから、彼はクラプトンの曲を聴き込んだ上でそう言っているに違いない、と、筆者の友人は弁護していた。確かに「いとしのレイラ」はイントロからしてサビっぽい=いきなり耳に残る。シングル・ヴァージョンの演奏時間(3分7秒)が短いとは言え、最初から最後までどこを切っても印象深い。メロディ、歌詞、ヴォーカル、演奏――その全てが。
“エリック・クラプトンがデレク・アンド・ドミノス時代に発表した不滅の名作が、この「いとしのレイラ」です。以前はポリドール・レーベルで発表されておりましたが、今回ファンの皆様の要望にこたえ再発売されることになりました。クラプトンとデュアン・オールマンとのギター・プレイは今でも新鮮さを感じさせてくれます”――以上、1978年リリース「いとしのレイラ」再発日本盤シングルのミニ・ライナーノーツより(※無記名)。
曲の要旨
誰もそばにいてくれなくて孤独感に襲われた時、君はどうするの? 君は(僕の気持ちに気付いていながら)ずっと僕をじらしてばかり。取るに足らないプライドが君をそうさせてるんだろ。レイラ、こうなったら恥も外聞もかなぐり捨てて君に懇願するよ。不安でいっぱいの僕の気持ちをどうか鎮めてくれ。君の夫が君をないがしろにするから、僕は君を慰めてあげようと必死だった。僕はそんな君に見境もなく恋してしまったんだよ。君と出逢ってから僕の毎日は混乱しっ放しだったんだ。レイラ、こうしてひざまずいてお願いしているのさ、不安に駆られている僕の心を落ち着かせてくれよ。
1971年の主な出来事
アメリカ: | 憲法修正第26条で、全選挙で18歳以上に投票権を与えることを決定。 |
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日本: | ハンバーガー大手チェーンのマクドナルドが日本の第1号店を銀座にオープン。 |
世界: | 中国の林彪副主席が亡命を企てるも、搭乗した飛行機が墜落して死亡。 |
1971年の主なヒット曲
Just My Imagination (Running Away With Me)/テンプテーションズ
Another Day/ポール・マッカートニー
Bridge Over Troubled Water/アレサ・フランクリン
What Is Life/ジョージ・ハリスン
Have You Seen Her/シャイ・ライツ
Laylaのキーワード&フレーズ
(a) a woman’s old man
(b) get someone on his/her knees
(c) ease one’s mind
1stヴァースだけ聴いた時点では、この曲をすぐさま“不倫ナンバー”と察知するのは難しい。もちろん、曲に関するエピソードを全く知らない状態で聴いた場合に限るが。そして例の強烈な印象を残すコーラス部分♪Layla, you got me on my knees… に移行し、続く2ndヴァースに登場する(a)を耳にして初めて“これは……!”と気付かされるのだ。(a)を直訳すれば「(ある女性の)年老いた彼氏=恋人」だが、ここはズバリ「夫」を指す。“old”には、「年老いた」ではなく「君がずっと一緒に暮らしてきた」というニュアンスが含まれており、ハッキリと“your husband”と言うよりも主人公の男性の嫉妬心が滲み出ているような気がする。“old”には「これまで経てきた年月」の意味合いもあり、裏返せば「僕が君と一緒に“暮らせなかった”年月」ということだろう。もっと意地悪な解釈をすれば、“your old man=君がもう飽き飽きしているあいつ”だろうか。パティさんが戸惑った、というのにもうなずける。(a)が登場するヴァース全体に、クラプトンが彼女に向けた「好きで好きでたまらない!」という気持ちが横溢しているから。これを聴いて“your old man”呼ばわりされたジョージはどう思ったのだろう……? 妻を友人=クラプトンに奪われてもなお彼との友情を育んでいたというジョージ。本当にお優しい方だったんですね……。
(b)はラヴ・ソングに頻出するイディオムのひとつで、読んで字の如く「ひざまずく」という意味。ここでは“get”が使役の動詞の役割を果たしており、“get + ~ing”でも同じ意味になる。例えば――
♪You got me singing La-La-La-La…
♪You got me going hmmm…
♪You got me wanting (needing) more
……などなど。“get”の代わりにやはり使役の動詞である“make”を用いると、“make +目的語+動詞の現在形”であることは、みなさんもご存じのはず。“get + ~ing”は、どちらかと言えば口語的で、洋楽ナンバーではしょっちゅう見聞きする言い回し。もちろん、普段の会話でも耳にする機会が多い。そして「(相手の女性が)自分をひざまずかせる=思わず相手に向かって懇願してしまう」というフレーズは、何故だか男性シンガーの歌詞に多い。1980年後期~1990年代初期、こうした“懇願する男性”のR&Bナンバーが大流行したことをご参考までに記しておく。当時、どういうわけだか「俺について来い!」タイプの男性シンガーは敬遠されがちで、「ひざまずいて懇願」する男性シンガーがわんさかいたものだ。今でもそうしたタイプの男性R&Bシンガーがもてはやされる傾向にある(例えばNe-Yoなど。筆者の友人、特に若い女性に彼の大ファン多し)。
(c)は辞書の“ease”の他動詞の項目に必ずと言っていいほど載っているイディオムで、「~の心を軽くする」という意味。これまた洋楽ナンバーには欠かせないイディオムのひとつと言ってもいいほどで、(c)が含まれるフレーズを過去に一度も歌ったことがない、というシンガーは皆無に等しいのではないだろうか。この曲にしてもそうだが、大抵の場合、(c)を含むフレーズの前後には“please”を伴う。懇願モード爆裂フレーズ。では、この曲の主人公の心は何故に“worried”の状態に陥っているのか?――答えはひとつ。恋する相手の女性が人妻だから。ううん……クラプトンさん、真剣そのもの! アツいです!
不倫ナンバーでありながら、否、だからこそ(?)ストレートな愛情表現がいっそ心地好い。確かに持って回ったような言い回しもあるが、曲全体を通して聴いてみると、むしろ爽快感さえ残る。恋愛に関して言えば、得てして女性の方が男性よりも割り切りが早いと言われるが、女性が歌う不倫ナンバーはもっとドロドロとしている場合が多いような……。中には“怨念てんこ盛り”のような不倫ナンバーもあって、聴いていてツラくなるものも。後にクラプトンの恋が成就して晴れてパティさんを手中に収めた、ということを前もって知っていたためか、この曲にはそのドロドロ感が微塵も感じられない。一気に+ノリノリで聴いてしまえる。ただ、この曲を作っている最中の彼の心中を慮れば、軽々に“爽快不倫ナンバー!”と言ってしまうのは大変に失礼だろう。ごめんなさい、クラプトンさん。