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//www.songlyrics.com/jackson-5/give-love-on-christmas-day-lyrics/
曲のエピソード
師走になった途端に、街角から、或いはラジオからジャクソン・ファイヴ(以下J5)のクリスマス・ソングがほぼ毎日のように流れてくる。今から43年も前にリリースされたJ5のクリスマス・アルバム『CHRISTMAS ALBUM』(全米、全英共にアルバム・チャート圏内にランク・インせず)の音色は、今なお色褪せてはいない。同アルバムに収録されているのは、讃美歌、伝統的なクリスマス・ソング、そしてオリジナルのクリスマス・ソング。そのいずれもが極上の出来映えで、非クリスチャンの筆者でもこの時期になると思わずLPをレコード棚(クリスマスのLPだけ一箇所にまとめてある)から取り出してターンテイブルに乗せて聴いてしまう。最近では以前ほど愛聴していないFEN(現AFN)だが、恐らく今冬もJ5のクリスマス・ソングが幾度となくオン・エアされることだろう。
この曲が収録されがアルバムが本国アメリカでリリースされたのは1970年10月のことだから、レコーディング時のマイケルはまだ11~12歳だった。しかしながら、メッセージ色の濃いこの曲をじつに情感たっぷりに歌い上げているのである。筆者はJ5のクリスマス・アルバム収録曲の中で昔からこれを最も愛聴した。LPの盤面をつぶさに見てみると、この曲の箇所だけうっすらと白く見える(=盤面が擦り減っている)ほどだ。英語を理解できなかった子供の頃はタイトルから勝手に「クリスマスに愛する相手に愛を捧げる歌」だとばかり思っていたのだが、豈図らんや。今ではトンデモナイ勘違いをしていた自分を恥じている。やはりきちんと歌詞を把握してから曲の内容を受け止めたいものだ。
後にテンプテーションズやジョニー・ギルといったモータウン所属のアーティストたちにもカヴァーされた名曲だが、このメッセージ・ソングを幼少のマイケルが真っ先に歌った、という点に筆者はシビレるのである。もちろん、テンプスとジョニーのカヴァーも上出来だ。しかしながら、「今、世界中の人々が求めているのは愛。クリスマスが訪れたその日にみんなも愛のおすそ分けをしてみない?」と歌ったマイケルの思いの丈は、生涯、彼の中で息づいていたことだろう。彼ほどの博愛主義者のアーティストを、寡聞にして他に知らない。
曲の要旨
この季節になると、人々はクリスマス・プレゼントを贈る相手を考えながら、誰に何を贈ろうかと考えながらメモを取るのさ。遠く離れた場所に暮らす親しい人々が、一堂に会する季節だからね。それを考えると、お店で売ってるもの以上にステキなプレゼントをしたい、って思うものなんだよ。だったら、クリスマスの日に誰かに愛をプレゼントしてみない? どんなに恵まれている人でも、クリスマスに愛をもらったらきっと喜ぶと思うよ。愛に優る贈り物なんてこの世にはないんだから。街中がクリスマス・シーズンの華やいだ雰囲気に包まれているね。クリスマスの日は年に一度っきりだから、特別な人に向かってとっておきの言葉を贈りたくなるものさ。だから世界中の人々に愛を降り注いであげようよ。今、世界中の人々が求めているのは愛なんだから。
1970年の主な出来事
アメリカ: | ヴェトナム戦争への反戦デモに参加していたオハイオ州立ケント大学の学生4名が射殺される。 |
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日本: | 赤軍派による日本航空よど号のハイジャック事件が世間を震撼させる。 |
世界: | ビートルズ解散のニュースが世界中に衝撃を与える。 |
1970年の主なヒット曲
Raindrops Keep Falling On My Head/B. J. トーマス
Love Grows/エディソン・ライトハウス
Thank You (Falletinme Be Mice Elf Agin)/スライ&ザ・ファミリー・ストーン
Call Me/アレサ・フランクリン
Let It Be/ビートルズ
Give Love On Christmas Dayのキーワード&フレーズ
(a) things that words can’t say
(b) the man on the street
(c) the world needs your love
決して絢爛豪華なクリスマス・ソングではない。ましてや、非クリスチャンであってもどこかで必ずや一度は耳にしたことのある讃美歌の類でもない。それなのに、聴けば聴くほどにじんわりと心を温かく包み込むクリスマス・ソングである。原曲の出来映えが素晴らしいだけに、数あるカヴァー・ヴァージョンもこれまで長いこと愛聴してきた。しかしながら、マイケルの純粋でひたむきなヴォーカルがやはりこの曲には最も相応しいと思う。
ここで歌われている“love”は恋愛感情のそれではない。敢えて意訳するなら「普遍の愛」、「人間愛」だろうか。「慈愛」でもいいだろう。或いは「無償の愛」だろうか。ピッタリとくる言葉が見つからないもどかしさをズバリ言い当ててくれているのが(a)のフレーズである。曰く「言葉では上手く言い表せない事柄(を相手に伝えたくなる季節=クリスマス・シーズン)」。人間は言葉を操る生き物だが、それでも伝えたいことを上手く言葉で表現できずに悶々とすることが多々ある。そういう「もどかしさ」を表現するフレーズとして洋楽ナンバーに頻出するのは――
♪Words cannot express how I feel
♪I can’t find the right words to explain how much I love you
♪Words just couldn’t explain
いずれも“言葉では上手く言い表せないもどかしさ”を切々と訴えているフレーズである。(a)を含むフレーズがいわんとしているのは、「言葉では上手く伝えられない気持ちを態度で示す」ということ。ここで歌われている“love”は「世界中(の人々)が必要としているもの」である以上、そこに言葉の壁があってはならない。よって、口先だけの言葉で愛情を語るよりも、その気持ちを態度で示してみてはどうだろう、と歌われているのである。ティーネイジャーの子供が歌うにしてはじつに深遠な歌詞だ。
いつの頃からか“浮浪者”は放送禁止用語になった。たまに古い日本映画のDVDを観ていると「浮浪者」という言葉を耳にすることもあるが、近年では活字でも「ホームレス」で統一されているようである。カタカナ語は日本語のオブラートになり易い。
(b)は直訳すれば「路上生活者」だが、これ即ち「ホームレス」。ここのフレーズでは、「ホームレスの人にも(家やアパートの上階に住む)カップルにも愛を注いであげよう」と歌われている。つまり相手がどんな境遇にあろうとも、クリスマスの日には平等に人々に愛情を示してあげよう、というメッセージが込められているわけだ。(b)では定冠詞“the”が頭に付いていることから、リスナーの人々が“知っている、目にしたことのある”ホームレスの人を指す。“a man on the street”とはわけが違うのである。相手を認知しているからこそ“love”を与えることができるのだ。仮に“a man on the street”だとしたら、行ったこともない世界の果てにいる見ず知らずの「路上に佇む人」になってしまうから。
これまで何度か“you”は不定代名詞的に用いられることがある、と述べてきた。(c)での使われ方も同様で、ここの“you”は目の前にいるたったひとりの相手を指しているのではない。この曲を聴いている不特定多数のリスナーたちを指しているのである。仮に(c)の“you”がこの世のたったひとりの人間を指しているとしたなら、「世界中(の人々)が求めている愛」を存分に与えられるはずがない。(c)を含むフレーズを意訳するなら、「世界中のみんなのひとりひとりが世界中の人々に愛を注ぐことが大切なのです」だろうか。ここは非常にメッセージ性の強いフレーズである。
非クリスチャンであっても、クリスマス・ソングだけは愛聴している、という音楽仲間は少なくない。もちろん、心躍るような楽しげなクリスマス・ソングもこの季節には欠かせないが、たまにはこうしたメッセージ・ソングにじっくり耳を傾けてみるのも悪くはないと思う。クリスチャンにも、非クリスチャンにもクリスマスは年に一度しかやって来ないのだから。