●歌詞はこちら
https://www.azlyrics.com/lyrics/olivianewtonjohn/haveyouneverbeenmellow.html
曲のエピソード
オリヴィアにとって、「I Honestly Love You(邦題:愛の告白)」に続く2曲目の全米チャート制覇となった大ヒット曲。アダルト・コンテンポラリー・チャートでも堂々のNo.1を記録し、カントリー・チャートでもNo.3と大健闘した。
彼女に複数の楽曲を提供しているオーストラリア生まれのソングライター/プロデューサーのジョン・ファラー(John Farrar/1946-)が、1974年に彼女の全米ツアーに同行したミュージシャンたちが会話の中で好んで“mellow”という言葉を使っていたことにヒントを得て作った曲だと言われている。その際、自らもミュージシャンであるファラーもツアーに同行していたのだろう。
英語圏では、しばしば曲のタイトルが誤って伝わることがあるが、これも「Have You Ever Been Mellow」と勘違いされることが多い。邦題の「そよ風の誘惑」は、歌詞の内容とは全く関係がなく、アーティストや曲のイメージから思いついた雰囲気もののタイトルに過ぎない。当時、原題が長いため、恐らくオリヴィアの担当ディレクターが頭をひねって考え出したものだろう。「誘惑」から察するに、ラヴ・ソングかと思いきや、じつはこれはメッセージ・ソング。それでも、邦題がすっかり浸透してしまったためか、今でもカタカナ起こしなどに変更されることなく使われている。
曲の要旨
肩ひじを張って、いつも神経をとんがらせている人。何事をするにもあくせくしていて、見ている方まで気疲れしてしまいそう。でも、そんな人を見ていると、かつての自分自身を思い出さずにはいられない。そんな生き方が、どんなに息苦しいものなのか、自分も体験しているだけに、よく理解できる。そんな人に、思わず声をかけたくなってしまう。「これまで一度も肩の力を抜いたことはないの?」と。そうすれば、きっと楽になるはずだから。このへんで歩みを緩めてみましょうよ。
1975年の主な出来事
アメリカ: | ウォーターゲート事件の裁判で判決が下る。 |
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日本: | 沖縄県の本土復帰を記念する沖縄国際海洋博覧会が開幕。 |
世界: | イギリス保守党がマーガレット・サッチャーを同党初の女性党首に選出。 |
1975年の主なヒット曲
Please Mr. Postman/カーペンターズ
Black Water/ドゥービー・ブラザーズ
Lady Marmalade/ラベル
Lovin’ You/ミニー・リパートン
Jive Talkin’/ビージーズ
Have You Never Been Mellowのキーワード&フレーズ
(a) mellow
(b) one’s song
(c) kick one’s shoes off
この曲が流行ったのは、筆者が小学校5~6年生の頃。たまたま従姉妹がオリヴィアのLPを持っていたので、邦題の「そよ風の誘惑」をオン・タイムで知った。歌詞の内容なんて解らなかったから、邦題に惑わされて、てっきりラヴ・ソングだとばかり思っていた。やがて高校時代に趣味で訳詞をやり始めた頃、何となくもう一度この曲を聴いてみたくなって、今度は自分でLPを買い、一生懸命に訳してみた。そこで初めて、これがラヴ・ソングではないことを知ったのだった。確かに、「そよ風の誘惑」は清楚なイメージのオリヴィアにはピッタリの邦題だったけれど、別の曲に当てはめた方が良かったのでは……?
(a)は、ひと昔前、日本でも流行した言葉。「メロウな気分で」とか、「メロウな音楽を聴きたい」とか、そういう使われ方をしたものだ。カタカナ語は、原意とはちょっと違うニュアンスになってしまっている。原意は「やわらかな、甘い、(果実などが)熟した、(土地などが)肥えた」の他に「感じのいい、心地好い、くつろいだ」といった意味。もちろんこの曲の(a)は後者の「くつろいだ」という意味に匹敵する。「くつろぐ」、すなわち「肩の力を抜く、リラックスする、気分をほぐす、心を落ち着ける」という意味合いで使われており、タイトルは「あなた(この曲の“you”は不特定多数の相手を指すと考えてもいい)はこれまで一度も肩の力を抜いたことがないの?」と解釈できる。これを「あなたはこれまで一度も優しい気持ちになったことがないの?」と解釈する人もいるようだが、それは誤り。タイトルを口語的に意訳してみると、「このへんで深呼吸でもして、いっぺん肩の力を抜いてリラックスしてみたらどぉ?」てな感じだろうか。メッセージ・ソングであるから、ターゲットは、日々の生活の中でストレスがたまっている人、あるいは朝から晩まで仕事追われる企業戦士、はたまた、日々、勉強に没頭する受験生……。ひと言で言えば、これは、立場は違っても、四六時中、緊張感を強いられ、小休止する暇もなく毎日を送っている人々に向けての「ひと息入れましょう」ソングなのである。1975年当時、ストレスを抱えた多くの人々がこの曲に励まされ、愛聴したことだろう。
オリヴィアが1974年に全米ツアーを行っていた頃、バック・バンドのミュージシャンたちは、ステージに繰り出す前に、“Let’s get mellow!(肩の力を抜いてやろうぜ!)”と言いながら互いを励ましていたのかも知れない、なんてことをちょっと想像してみた。
(b)は非常に誤解しやすい言い回し。「あなたの歌(あなたが口ずさむ歌)を聴いて幸せな気分になったことは一度もないの?」というのはハッキリ言って誤訳である。もしそうであるなら、そこのセンテンスは以下のようでなければならない。
♪Have you never been happy just to sing your song?
ところが、(b)を目的語とする動詞は“sing”ではなく“hear”である。仮に“you”がソングライターだとして、「あなたが作った曲がどこからともなく聞こえてきて、幸せな気分になったことは一度もないの?」という解釈もあるだろうが、曲全体から考えて、“you”がプロのソングライターとは考えにくい。となれば、(b)の意味はこれしかない。以下、解りやすいように書き換えてみる。
♪Have you never been happy just to hear your favorite song?
ラジオからたまたま流れてきたお気に入りの曲を耳にしたアメリカ人の友人が、“Yeah! That’s MY SONG!”と小躍りした場面に出くわしたことがあった。そう、(b)は、「~のお気に入りの曲」という意味なのだった。余談ながら、イーグルスの有名曲「Hotel California」(1977, 全米No.1)に“. . . my wine”という一節があった。「俺が醸造したワイン」じゃなくて「俺の口に合うワイン」といったところでしょうかね。
(c)の“kick off”は、それだけで「(靴などを)蹴るように脱ぎ捨てる」という意味だが、そこに“one’s shoes”がつくと、「くつろぐ」という意味になる。スラング的言い回しで、R&Bやラップ・ナンバーに古くから登場する。特に、これからベッドで交わろうとする時、男性が女性に言う常套句として使われることが多い。この「靴を脱ぐ=くつろぐ」という発想は、寝る時以外はほとんど靴を脱がない欧米人の生活習慣がもとになっているのでは、と勝手に想像しているのだが……。靴を脱いで家に上がる日本人には、ちょっと思いつかない発想だ。 (c)は、“kick off one’s shoes”という言い方もできる。