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曲のエピソード
映画監督/脚本家/作曲家であるジョゼフ(通称ジョー)・ブルックス(Joseph Brooks)が、いわゆるハリウッド映画のスターを一切起用せず、低予算で製作することをモットーにメガホンをとった映画『YOU LIGHT UP MY LIFE(邦題:マイ・ソング)』の主題歌。実は、主人公の女性を演じたディディ・カーン(Didi Conn)は、劇中で実際にこのテーマ曲を歌っていたのではなく、ソプラノ歌手のケイシー・シーシク(Kasery Cisyk/1998年死去)の歌声を“口パク”していたのだった。アメリカの国民的シンガー、パット・ブーン(Pat Boone/1934-)の愛娘デビーがケイシーに代わってこの曲をレコーディングすることになったのは、映画が公開された当時、アメリカのレコード会社がほとんど「You Light Up My Life」に関心を示さず、レコード化することを全く考えていなかったため、同曲の作詞作曲も手がけたブルックスがデビーに白羽の矢を立て、そのお蔭で、同曲はようやく陽の目を見、全米チャートで何と10週間にもわたってNo.1の座をキープした。
もともとプロのシンガーではなかったデビーは、この曲でグラミー賞最優秀新人賞を、そして『YOU LIGHT UP MY LIFE』の監督であり、曲を作った張本人でもあるブルックスは、グラミー賞最優秀楽曲賞を受賞した。これまでに、多くのシンガーがこの曲をカヴァーしているが、今年2月11日に48歳の若さで急逝したホイットニー・ヒューストンもカヴァーしている(2002年リリースのアルバム『JUST WHITNEY』に収録)。
曲の要旨
窓辺にもたれて、幾夜も男性が私のために歌を歌ってくれるのを待ち焦がれていたわ。胸の奥に、そういう恋愛をしたいという感情をずっとしまいこんできたの。けれど、あなたが目の前に現れてくれたお蔭で、独りぼっちで過ごす夜をこれ以上、耐え忍ぶ必要はなくなったのよ。あなたのお蔭で、私の人生はバラ色になったわ。あなたの存在が、これから先の私の人生に生き甲斐を与えてくれるの。夜はあなたの歌声に満たされる私。やっとあなたに「愛してるわ」って言えるチャンスが訪れたのね。
1977年の主な出来事
アメリカ: | 第39代大統領のジミー・カーターが、ヴェトナム戦争への徴兵を忌避した者たちを恩赦する。 |
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日本: | 正月早々、青酸カリ入りのコカコーラ事件が発生し、世間を震撼させる。 |
世界: | ロンドンで第3回先進国首脳会議が開催される。 |
1977年の主なヒット曲
I Wish/スティーヴィー・ワンダー
Rich Girl/ダリル・ホール&ジョン・オーツ
Don’t Leave Me This Way/テルマ・ヒューストン
Dreams/フリートウッド・マック
I Just Want To Be Your Everything/アンディ・ギブ
You Light Up My Lifeのキーワード&フレーズ
(a) light up one’s life
(b) song
(c) ~ can’t be wrong
実は筆者は、中学時代~高校時代に毎週のように映画館に通っていた。とりわけ、母校である青森県立八戸東高校は、当時、学校から徒歩数分の場所に映画館があり、隠れ漫研(苦笑/厳しい女子高だったため、漫研の活動は生活指導の先生から固く禁じられていた。文芸部はその隠れ蓑であった/ちなみに、現在は男女共学である)の活動を終えると、その足で映画館に向かったものである。
一人っ子のせいか、今でも単独行動が好きである。独りで外食したり飲み屋に入ったりするのを少しも厭わない。映画に関して言えば、独りで観に行くのが好きだ。よって、中学時代も高校時代も、ほとんどの場合、独りで映画を観に行ったものである。今回、採り上げた「You Light Up My Life」がテーマ曲の同タイトルの映画も、独りで八戸市内の古びた映画館で観た。そして、見終わった後、八戸市内のレコード店で、同曲(邦題:恋するデビー/稀に見る奇天烈な邦題である)のシングル盤を即購入し、帰宅してから自分の部屋のステレオで何度も何度も聴いたものである。が、よもや劇中で歌っているのがデビーではなく、違う女性(ケイシー・シーシク)とは夢にも思わなかった。ましてや、主役を演じたディディ・カーンが口パクをしていたなんて、中学生だった筆者は考えもしなかった。映画では、たびたびそのようなことがあり、あの有名な『ウエスト・サイド物語』(1957)の劇中歌「Tonight」を歌っていたのは故ナタリー・ウッドではなかった、ということは有名な話だし、アリス・ウォーカーの代表作『THE COLOR PURPLE(1983/訳本発売当初の邦題は「紫のふるえ」、後に「カラー・パープル」に改題)』の映画版(監督はあのスティーヴン・スピルバーグ/1985)でも、主人公セリーの盟友であるシャグ・エヴリィ役の女優がローカル・クラブのステージで歌うシーンでは、かつてモータウンに所属していた女性中堅シンガーの歌声に合わせて口パクをしていたことが知られている。
たとえオリジナルが違う女性シンガーであろうと、筆者の胸に最も響くのは、やはりデビーによる「You Light Up My Life」である。中学時代、映画を観終った後に購入したシングル盤は、今も大切に保管してあり、年に数回は聴く。彼女は同曲で一躍スターになり、その後もアルバムを発表し続けたが、はやり「You Light Up My Life」は彼女の代名詞的曲であり、今のところ、同曲を凌駕する大ヒット曲はない。個人的には、一発屋と言われようが、デビーの名前はその曲だけで半永久的にアメリカのポピュラー・ミュージカル史に刻まれるべきだと考える。それほど、曲の出来映えはもちろんのこと、彼女の情感たっぷりの歌いっぷりが素晴らしい。
タイトルにも組み込まれている(a)は、直訳すれば「~の人生を明るくしてくれる」だが、それだとつまらない解釈になってしまう。よって、敢えて曲の要旨では「私の人生はバラ色になった」と意訳してみたが、「バラ色の人生」も、もはや死語なのかも知れない。
筆者がこの曲で最も驚愕を覚えたのが、冠詞なしの(b)が登場するフレーズである。“song”は可算名詞であるので、本来なら、以下のようなセンテンスであるべきではないか、と。
♪You fill my nights with the song
もしくは、
♪You fill my nights with your song
ところが、この曲では(b)に冠詞がない。そこで、中学生だった筆者は、シングル盤に付随する歌詞カードを見ながら、辞書で既に意味を熟知しているはずの(b)の意味を改めて調べていた。すると、そこには驚くべき意味が記されていたのである。曰く、「歌うこと、声楽」。つまり“singing”とイコールである、と。これには本当に驚いた。“song”に「歌う(という行為)」なる意味もあったとは……。もしも「You Light Up My Life」を知らずにいたら、恐らく筆者は今でも“song”のもうひとつの意味を知らずにいただろうと思う。
洋楽ナンバーでよく見聞きする(c)の表現は、「~が間違っているはずなどない」という意味だが、それだと日本語として堅苦しい。この曲では、(c)の後に「胸がときめいた時には」と続く。(c)とつなげて意訳するなら、「胸がときめいた時には、その感情に逆らわないでいる方がいいわよね」となるだろうか。「胸がときめいた時には、その感情に間違いなどあるはずがない」などという直訳では、この曲の雰囲気がぶち壊しである。
みなさんには、人生をバラ色にしてくれるような歌を歌ってくれる相手がいらっしゃるでしょうか?