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曲のエピソード
世界中で大ヒットした映画『FLASHDANCE』(1983)のオリジナル・サウンドトラック盤(以下OST盤)からの大ヒット曲で、全米チャートでは6週間にわたってNo.1の座を死守し、ゴールド・ディスク認定となった。歌っているアイリーン・キャラはニューヨーク出身のシンガー兼女優で、ニューヨークの音楽学校を舞台とした青春映画『FAME』(1980)の主題歌(全米No.4)を歌い、映画にも出演していた。シンガーとしてヒット曲はそれほど多くはないが、この「Flashdance… What A Feeling(邦題:フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング/単に「フラッシュダンス」ともいう)1曲だけでも、多くの人々の記憶に残るシンガーだろう。
歌詞を綴ったのは、アイリーン自身と、イギリスの映画音楽制作者キース・フォーシー、そしてメロディはドナ・サマーを始めとして数多くのアーティストを手掛けた“ディスコの父”の異名を取るあのジョルジオ・モロダーである。
映画が公開された当時、プロのダンサーになるために審査員たちの前でアクロバティックで激しいダンスを披露するシーンで踊っていたのは主役のジェニファー・ビールズではなかった、というのは映画会社の意向で伏せられていたというのだが、筆者自身、当時、この映画を観た時から、どこからともなくその話が耳に入ってきた記憶がある。そのシーンのダンスが余りに激しくて顔が良く見えないのだが、あれは明らかにジェニファーではなかった。しかしながら、1980年に既に映画『MY BODYGUARD』で女優としてデビューしていた彼女が、『FLASHDANCE』で多くの人々にその名を知らしめたことは事実である。インディアンの血が入ったアフリカン・アメリカンの父と、アイルランド系アメリカ人の母を両親の間に生まれた彼女は、一見して人種が判らない(少なくとも筆者の目にはそう映る)のだが、独特の美しさとチャーミングさを兼ね備えた女性だと思う。『FLASHDANCE』以降もコンスタントに映画に出演し、TVドラマでも大活躍中である。
なお、「Flashdance… What A Feeling」は、グラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞を受賞した。また、OST盤からシングル・カットされたマイケル・センベロの「Maniac」も全米No.1を記録している。
曲の要旨
夢が少しずつ膨らんできて、心の中に不安が渦巻き、人知れず“負けるもんか”と心に誓って世間の冷たい風にさらされながら流す涙。それでも、音楽が流れてきて目を閉じると、身体中がリズム感に包まれて、心を突き動かされずにはいられないの。ああ、何て素晴らしい感覚なのかしら。今、私は生きてるんだわ、って実感するの。こんな風に踊ってる自分をずっと思い描いてきたわ。今、私は自分の人生のためにこうして踊っているの。夢にまで見たことが現実になったのよ。情熱を持って夢を実現させればいいの。人生を通してこうして踊っていられるなんて、本当に素晴らしいことよ。
1983年の主な出来事
アメリカ: | 女性初の宇宙飛行士を乗せたチャレンジャー号の打ち上げに成功。 |
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日本: | 千葉県浦安市に東京ディズニーランドがオープン。 |
世界: | フィリピンで民主化運動の指導者ベニグノ・アキノが暗殺される。 |
1983年の主なヒット曲
Africa/TOTO
Beat It/マイケル・ジャクソン
Sweet Dreams (Are Made of This)/ユーリズミックス
Maniac/マイケル・センベロ
Tell Her About It/ビリー・ジョエル
Flashdance… What A Feelingのキーワード&フレーズ
(a) a world made of steel, made of stone
(b) What a feeling
(c) pictures come alive
大学時代、同級生から「何でもいいからブラック・ミュージックの曲をいろいろ入れたテープを作ってくれない?」と頼まれたので、1曲目にこの「Flashdance… What A Feeling」を入れたところ、後日、彼女から返ってきた言葉は次のようなものだった。「泉山さんって、マニアックなブラック・ミュージックじゃないのも聴くのね。あたし、ビックリしちゃった」。以来、この曲を聴く度に、その時の彼女の言葉を反射的に思い出してしまう。それほどこの曲はあちらこちらで流れていた。その時点で、“ブラック・ミュージック”の範疇を超えてのクロスオーヴァー・ヒットだから、映画とOST盤が大ヒットしていた頃、FEN(現AFN)からこの曲が流れなかった日が一日もなかった、と言っても過言ではない。今ではよほどのことがない限り、OST盤が大ヒットすることはないが、当時は映画の大ヒットとの相乗効果で、OST盤も売れに売れたものである。『FLASHDANCE』の翌年に公開された、やはりダンスをテーマにした映画『FOOTLOOSE』(2011年にリメイク版も作られた)などはその好例。同映画のOST盤からも複数のヒット曲が生まれた。
映画の主人公の女性は、プロのダンサーを目指してニューヨークへ乗り込むのだが、現実は甘くない。そのことが凝縮されているフレーズが(a)である。ここで肝心なのは、“world”の冠詞が定冠詞の“the”ではなく不定冠詞の“a”であること。そのことで、ここが比喩であると気付く。直訳すれば「鉄と石でできた世界」だが、そこから想像されるのは、「冷たくて、温もりのない世の中」、即ち「甘くない世間」という解釈が成り立つのではないだろうか。もっと踏み込んで言えば、ニューヨークという巨大都市を(a)で比喩的に表しているようにも思える。曲の要旨では「世間の冷たい風にさらされながら」と意訳してみたが、映画を観た後で、当時、そこのフレーズが「現実は決して甘くないこのニューヨークという大都会で暮らしながら」と聞こえたものである。
タイトルにもなっている(a)は感嘆文で、言葉を補足すると次のようになる。
♪What a feeling this is!
日本語に直すなら「何て気持ちがいいのかしら!」、「快感!」といったところだろうか。ここのフレーズを原題に組み込んだセンスに脱帽。何と言っても、曲の一番の聞かせどころだから。アイリーンのヴォーカルも高揚している。また、欧米では、副題ともいうべき「What A Feeing」の方がタイトルとして通っている場合もある。
(c)の“pictures”だが、ここは「写真」や「絵画」という意味ではない。“picture”には、“心に描いたもの、イメージ”という意味もあり、動詞の場合、「心に思い描く」という意味もある。“come alive”は「絵やイメージなどが本物に見える」という意味だから、ここを意訳すると「今まで心に思い描いてきたことが現実のものになった」となるだろうか。映画のテーマに沿って意訳するなら、「自分がプロのダンサーとして踊っている姿を想像してきたことが、今、実現した」でもいいだろう。
『FLASHDANCE』は、初めてブレイク・ダンス(ヒップ・ホップ・カルチャーから生まれたアクロバティックな踊り/頭を地面につけてグルグル回ったりするもの)を映画のシーンに取り入れた作品だという。同映画の大成功を受けて、その後、ヒップ・ホップ系のダンス映画も数多く制作された。一時は、激しい踊りのブレイク・ダンスが危険視され、下火になったこともあったが、最近、どのアーティストの曲のPVだったか忘れてしまったが、あの懐かしい頭グルグル回転のダンスを目にした。『FLASHDANCE』の公開から早や30年。「歴史はくり返す」を実感した次第である。