大規模英文データ収集・管理術

第44回 英文データの実践的収集方法(カード方式)・5

筆者:
2013年2月18日

(c) 複文一葉式(続き)

今回は、3つ目のパラグラフを使い、そこから、9個のデータを採取してみようと思います。

すでに過去のものとなっている「カード方式」にここまで執拗に拘るのには、次のような理由があります。

・確かに「カード方式」を追究しているようではありますが、実際には、「カード方式」にかこつけて、「採取対象データ」を、できる限り広く、深く説明することにあります。

・「トミイ方式」が「コンピュータ時代」に移行してきたとはいえ、まだ、英文原稿がすべて電子化されているというものではない現実や、たとえ英文原稿が電子化されていても、環境により、英文データをいつでもどこでも自在にコンピュータに収納できるものではないという状況がたくさんあるという現実などを考慮すると、英文データをカードに収納したほうがよいという状況がたくさんあります。

それでは、3つ目のパラグラフから優先順序の比較的高いものから9個選択し、データカード13データカード14データカード15を「添付-H」に、データカード16データカード17データカード18を「添付-I」に、そして、データカード19データカード20データカード21を「添付-J」に示します。

atomii44h.jpg

データカード13
理由:rangeを「範囲」として採ってみました。ここでは、range from 2 to 25 Aとして「電流の範囲」と表しています。この例でも分かるように、範囲を表す場合、始点――この場合は2――には単位をつけず、終点――この場合は25――にのみ単位をつけます。ただ、始点と終点の単位が異なる場合には、下記のように両方に単位をつけます。
例 Operating frequencies can range from 10 kHz to 3 MHz or more.
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「表現別」です。中分類は「範囲」です。

データカード14
理由:noninductive を「反意語」として採りました。普通の英和辞典のほとんどは、“noninductive は inductive の「反意語」”という表示は出ていますが――もちろん、それさえ出ていない辞書もたくさんありますが――その反対の、“inductive の「反意語」は noninductive である”という表示が出ている辞書は極めて少ないです。たとえば、possible などのような易しい言葉は、「その反意語は impossible である」と誰にでも容易にわかりますが、symmetry とか moral などとなると、反意語を作る接頭辞はすぐには出てきません。dis だったかな、im だったかな、in だったかな、non だったかな、un だったかな、などといろいろ迷ってしまします。実は、これら2つの言葉の反意語は、単に a をつけて asymmetry とか amoral でよいわけです。このように反意語が出てきたら、片っ端から採取し、反意語順ではなく、反対を表す接頭辞を取り除き、肯定語をアルファベット順に並べておくようにします。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「その他」です。中分類は「反意語」です。

データカード15
理由:このカードは configuration として採ってあります。この言葉は、大方の辞書に載っている訳語では訳せないことがよくある単語ですので、将来のために、このまま「アルファベット順」に入れておくとよいです。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「アルファベット順」です。

atomii44i.jpg

データカード16
理由:このカードは available として採ったもので、この言葉もいろいろな意味や用法のある単語で、大方の辞書にある意味や訳語では訳せないことがよくある単語です。このデータカードの用法は、比較的簡単ですが、この言葉が、前置詞と一緒に使われている場合には、その前置詞によって、意味がすべて変わってきますので、必ず採取しなければなりません。細分類については、下の「場所」に述べてある説明をご参照ください。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「アルファベット順」です。

まだ1枚目ですから、下に示すような分類はできませんが、やがて、100枚、200枚、300枚と集めってくると、下のような分類ができるようになります。
1 客語的用法
 (1) be動詞 + available
 (2) make (become, remain, etc.) + available
 (3) be動詞 + available + 前置詞
2 修飾語的用法
 (1) available ____
 (2) ____ available
3 「____は市販されている」
 (1) ____ + be動詞 + commercially available
 (2) ____ + be動詞 + available commercially
4 「市販されている____」
 (1) commercially available ____
 (2) ____ commercially available
 (3) ____ available commercially

ちなみに、この「データカード16」は、上の1 (1)の用法の例です。その1行下にある available は1 (3)の用法の例です。

データカード17
理由:「トミイ方式」では、百数十個あると考えられる「物理量」を、「数量表現別」の中に収録しています。「物理量」とは、第34回(2012年10月1日公開)で説明したように、温度、湿度、速度、圧力、電圧、電流、価格、高さ、幅、長さなどなど、数値+単位で表される、英語では「数」としてはなく、「量」として取り扱われるものです。ここでは、current すなわち「電流」の表現として採取しています。10 mA to 5 A というように電流の値に範囲がある場合には、currents というように複数形で書くことも忘れないでください。すでにお気づきだと思いますが、10 mA to 5 A は、始点と終点の単位が違うため、始点にも単位記号が入っています。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「数量表現別」で、中分類は「物理量」、小分類が「電流」です。

データカード18
理由:これは「数量表現別」の中の「概略」の表現です。「概略」を表す表現には、下に示すようにたくさんありますが、in the order of はそのうちの一つです。
 例:about,approximately,almost,nearly,roughly,around,some,or so,close to,in the neighborhood of,in the vicinity of,in a matter of,in the order of
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「数量表現別」で、中分類は「数量語句周りの表現」、小分類が「概略」、細分類が「in the order of」です。

atomii44j.jpg

データカード19
理由:「数量表現別」のデータがつながってしまいましたが、これも「数量表現別」のデータです。ここでは、voltage すなわち「電圧」の表現として採取しています。from 9 to 48 Vdc というように電圧の値に範囲があるため、voltages というように複数形になっています。この例文では、始点と終点の単位が同じですから、始点には Vdc という単位はついていません。なお、日本語では、よく「交流100V」とか「直流24V」などといいますが、英語では、dc とか ac の記号は、必ず数字の後ろ、厳密にはVの後ろ、につけることも、この英例文から学びましょう。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「数量表現別」で、中分類は「数量語句周りの表現」、小分類が「概略」、細分類が「up to」です。

データカード20
理由:もう1つ「数量表現別」のデータです。この up to 5 A というのは、下から上に向かって「まで」を表すもので、「最大」と考えることもできる表現です。ちなみに、上から下に向かって「まで」を表す英語は down to です。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「数量表現別」で、中分類は「数量語句周りの表現」、小分類が「最大・最小」、細分類が「up to」です。

データカード21
理由:ここでは、副詞(completely)+ 過去分詞(transistorized)+ 名詞(proximity switches)に注目して採取してみました。要するに、日本語で

どのように ~された 何々

という場合、英語でも、全くそれと同じ語順で書くことができるということを確認するためです。すなわち、日本語と全く同じ語順で

完全に(completely) トランジスタ化された(transistorized) 近接スイッチ(proximity switches)

と書けるわけですが、この語順を知らないと、初心者のお好みの which を使って

proximity switches which are completely transistorized

となってしまうわけです。
機能:学習、活用、制作・発表の順です。
場所:大分類は「品詞別」で、中分類は「副詞」、小分類が「副詞+過去分詞+名詞」です。過去分詞の代わりに現在分詞の例や形容詞の例もあります。

第40回から今回の第44回まで、5回にわたりデータカードを21枚作成してきましたが、7つの大分類毎の枚数は、「添付-A」にある、1つの英文から2件採取した分を含めて、下記の通り23枚採取しました。
「アルファベット順」:4枚
「50音順」:1枚
「表現別」:3枚
「品詞別:6枚
「構文別:1枚
「数量表現別」:6枚
「その他」:2枚

次回からは、英文データの実践的収集方法(コンピュータ方式)に入ります。

筆者プロフィール

富井 篤 ( とみい・あつし)

技術翻訳者、技術翻訳指導者。株式会社 国際テクリンガ研究所代表取締役。会社経営の傍ら、英語教育および書籍執筆に専念。1934年横須賀生まれ。
主な著書に『技術英語 前置詞活用辞典』、『技術英語 数量表現辞典』、『技術英語 構文辞典』(以上三省堂)、『技術翻訳のテクニック』、『続 技術翻訳のテクニック』(以上丸善)、『科学技術和英大辞典』、『科学技術英和大辞典』、『科学技術英和表現辞典』(以上オーム社)など。