まず同音異義語の書き分けから。名詞としては Laib [laɪp]「(パンなどの)塊」と Leib [laɪp]「肉体」、Waise [vaɪzə]「孤児」とWeise [vaɪzə]「やり方」、動詞としてはleeren [le:rən]「空にする」とlehren [le:rən]「教える」、malen [ma:lən]「描く」とmahlen [ma:lən]「(粉に)碾く」、文法的な語としては指示代名詞・定冠詞das [das]「それ・その」と接続詞の dass [das]「…すること」、前置詞wider [vi:dɐ]「…に逆らって」と副詞wieder [vi:dɐ]「再び」、などがある。接続詞dassは指示代名詞から生まれたものであり、英語のthatはそのような区別はしていないから不要と言えるが、やはり文の中で目立った方が副文の把握が容易になると言う利点がある。また、widerは本来は副詞であり、今日でも分離動詞の動詞付加語として文中で独立して現れるから副詞wiederと区別できた方がよい。しかし、mehr [me:ɐ]「より多くの」とMeer [me:ɐ]「海」、seid [zaɪt] 動詞(seinの2人称複数形)「…である」とseit [zaɪt]「…以来」、などは品詞が異なるから文中で現れる位置が重複しないので誤解の余地がほとんどなく、書き分ける必要もないと思われる。
同音異義語は他にもいろいろあるが必ずしも書き分けていない。例えば、Bank [baŋk] は「銀行」と「ベンチ」、Steuer [ʃtɔʏɐ] は「税」と「(車の)ハンドル」、sie [zi:] は「彼女」と「彼ら、彼女ら、それら」。品詞が異なるものとしては名詞Laut [laʊt]「音」と形容詞laut [laʊt]「うるさい」。これらは文法には現れる場所が異なったり、前後関係から意味的に誤解の恐れがないから書き分けないのである。同音になることは語形変化した場合も含めればもっと頻繁に見られる。動詞machen [maxən]「作る」は現時称3人称単数ではmacht [maxt]となり、Macht [maxt]「力」と同音になるし、binden [bɪndən]「結ぶ」の過去形band [bant] は名詞Band [bant]「(本の)巻、リボン」と同音である。つまり、同音異義現象はかなりあちこちで起こっているが、コンテクストにおける文法的規則や意味的関連などからコミュニケーションにはほとんど障害とならない。また、語はふつう、例えば、Mann「男」、「夫」、「人員」のように、多義であるが、いちいちそれを書き分けていないし、いられないのである。