クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―

34 ビールのドイツ語

筆者:
2008年12月22日

ドイツの食事といえばビールとソーセージ、というのはいかにもステレオタイプだが、ビールが美味いことに間違いはない。ドイツがイギリス・ベルギー・チェコと並ぶビール最先進国であることに、誰しも異存あるまい。もちろん、ドイツワインもあるが、ワインが造られるのはライン・モーゼル・マイン流域など「13大産地」に限られる。それに対し、ビールは全国いたるところで醸造されるまさにNationalgetränk(国民的飲料)といえる。

『クラ独』の編修委員は左党が多く、編修会議後は連れ立ってビール(だけではないが)を飲みに行くのが慣わしとなっている。このような我々が、ビール関連語彙の記述に意を用いたのは言うまでもない。まず、そのものずばりBierの項を見ていただきたい。そこには、枠囲み記事として「主なビールの種類」が挙げられている。ここにある十数種の基本カテゴリーを知っていれば、ドイツのどこへ行っても、ビールの注文に困らないであろう。

今回は、『クラ独』のページをめくりながら、ドイツビールを簡単に紹介してみたい。ビールといえばバイエルンが特に有名だが、ここでは樽生の明色ないし暗色ビール(Helles/Dunkles vom Fass)とともに、ぜひWeizenbier (Weißbier)を試していただきたい。これは『クラ独』によると「小麦を主原料とする発泡性の強い南ドイツのビール」である。今日では南ドイツに限らず、ドイツ語圏であればどこでも飲むことができるが、バイエルンのものが最良である。お勧めはErdinger、Schneider、Andechserなどの銘柄。なお、このビールは瓶内で二次発酵させた酵母(Hefe)入りが本来のもので、酵母抜きは邪道(?)である。間違いなく注文したければ、Hefeweizenbier(これも『クラ独』にあり)と言えば確実だ。

バイエルン州北部のフランケン地方は、ワインの名産地として知られるが、ビール醸造も盛んな土地柄で、特にRauchbierは究極のドイツビールと呼ぶべき逸品である。『クラ独』には、「燻製ビール(麦芽をいぶして煙の香りをつけた上面発酵ビール.バンベルクの特産品)」とある(A社のX辞典、B社のY辞典には記載なし)。ドイツビールは、ベルギービールなどに比べると一般に性格が穏やかだが、Rauchbierは強烈な個性を持つgewöhnungsbedürftig「慣れが必要」なビールだ。日本にはSchlenkerlaという銘柄が入っている。

他にはケルンのKölsch、デュッセルドルフのAltbier (Alt)、ベルリンのBerliner Weißeなど、各地特産のビールがある。これらについても『クラ独』本文を参照されたい。ただ、スペースの関係上、記述は(我々の意に反して)簡略となっている。興味のある方は、長尾伸『ビールへの旅』(郁文堂 2001)あるいは相原恭子『もっと知りたい!ドイツビールの楽しみ』(岩波書店 2002)などを読まれるとよいであろう。もちろん、ビールは「読む」より「飲む」ものなので、品揃えの良いデパートや酒屋さんでまずはWeizenbierを(できれば専用グラスとともに)入手し、味わっていただきたい。また、ベルギービールほどではないが、日本にもドイツビールを飲ませる店がある。特に東京駅前・新丸ビルのFレストランにはWeizenbierの注ぎ方が上手なウェイターがおり、ドイツで飲むのと同じ味が楽しめる。この店ではもちろん日本語が通じるが、いずれドイツでビールと料理を心おきなく堪能できるよう、ドイツ語に精進していただければ幸いである。

筆者プロフィール

『クラウン独和辞典第4版』編修委員 飯嶋 一泰 ( いいじま・かずやす)

早稲田大学文学学術院教授
専門はドイツ語学
『クラウン独和辞典第4版』編修委員

編集部から

『クラウン独和辞典』が刊行されました。

日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。

(第4版刊行時に連載されたコラムです。現在は、第5版が発売されています。)