人名用漢字の新字旧字

第132回 「塲」と「場」

筆者:
2017年5月11日

旧字の「場」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。新字の「塲」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「塲」と「場」の新旧には議論があるのですが、ここでは、「塲」を新字、「場」を旧字ということにしておきましょう。

昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表2528字を、文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、土部に「場」を収録していましたが、新字の「塲」は収録されていませんでした。昭和17年12月4日、文部省は標準漢字表を発表しましたが、そこでも旧字の「場」だけが含まれていて、新字の「塲」は含まれていませんでした。

昭和21年11月5日、国語審議会が答申した当用漢字表にも、やはり旧字の「場」が収録されていて、新字の「塲」はカッコ書きにすら含まれていませんでした。翌週11月16日に当用漢字表は内閣告示され、旧字の「場」は当用漢字になりました。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が、この時点での当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には旧字の「場」が収録されていたので、「場」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。新字の「塲」は子供の名づけに使えなくなりました。

それから半世紀の後、平成16年3月26日に法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「塲」はJIS第2水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が1回で、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区はありませんでした。この結果、新字の「塲」は「常用平易」とはみなされず、人名用漢字に追加されませんでした。

追加候補選定基準 漢字出現頻度数調査
200回以上 50~199回 1~49回
不受理の法務局数 11以上 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1・2水準
8~10 JIS第1~3水準 JIS第1・2水準 JIS第1水準
6~7 JIS第1~3水準 JIS第1水準 JIS第1水準
0~5 JIS第1・3水準 - -

その一方で法務省は、平成23年12月26日に入国管理局正字13287字を告示しました。入国管理局正字は、日本に住む外国人が住民票や在留カード等の氏名に使える漢字で、JIS第1~4水準漢字を全て含んでいました。この結果、日本で生まれた外国人の子供の出生届には、旧字の「場」に加え、新字の「塲」が書けるようになりました。でも、日本人の子供の出生届には、旧字の「場」はOKですが、新字の「塲」はダメなのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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