静岡県浜松の方言をクッキーに書いたお土産をもらいました。箱(包装紙)には,次のような方言が10語並び,横には小さく共通語訳が添えられています。【写真1】
しゃんべえ〔おしゃべり,口の軽い人〕
いっしょくた〔ごちゃまぜ〕
そうだら?〔そうでしょう?〕
バカ頭いいや〔とても頭がいい〕
いっとん〔いちばん〕
おすんばぁ〔はずかしがりや〕
お湯がちんちんだにー〔お湯が熱いよ~〕
そんなぶしょったい格好して〔そんなだらしない格好して〕
とんじゃかないよ〔かまわないよ〕
だもんで〔だから〕
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箱の裏側には「遠州浜松弁いろいろ わかりそうでわからない浜松弁。さっそく使ってみたくなります。」と書いた下に,16語があげてあります。【写真2】
ところが,よく見ると左の列の5語「いっとん」「~だもんで」「そうだら?」「いっしょくた」「おすんばぁ」は,何と先の箱の表にあげてあった方言とまったく同じです。5語ずつ3列に並べたその中央の上には「あわっくらい」〔あわてんぼう〕という方言があるのですが,それを実践してみせたのでしょうか? 表も裏も「いっしょくた〔ごちゃまぜ〕」になっていて,「だもんで・そうだら?・いっとん・おすんばぁ」〔だから・そうでしょう?・いちばん・はずかしい〕というギャグなんだろうかと,とんじゃかない〔〈頓着がない〉が変化した言い方。かまわない,の意〕そのおおらかさに思わず目が点になりました。
他には,いいとこまんじゅう〔都合のいい場所・秘密〕,いじゃ〔行こう,おいで〕,うっちゃる〔捨てる〕,うんもすんもない〔どうしようもない〕,まっと〔もっと〕,かっちんだま〔ビー玉〕,くろ〔すみっこ〕,けっこい〔きれい〕,おんし〔おぬし,おまえ〕,ちょっくらちょお〔一筋縄〕があげてあります。
箱の中には12枚のクッキーが入っており,淡い黄色の生地の表面に,こげ茶色の字で方言が書かれています(「おすんばあ,ちんちん,ぶしょったい,だもんで,そうだら?」が入っていました)。これを食べながら,あげてある方言をあれこれ組み合わせてつないでいくと,いろいろな文章が浮かび上がってきて,「実は深謀遠慮,意味深長な配慮のもとにこれらの語が選ばれているのかもしれない。一筋縄ではいかないぞ」と思ったことでした。
製造元に電話して先の例を挙げて話を聞くと,「いやいや,そんなたいそうなことではありません」と苦笑まじりの返事が返ってきました。方言は,できるだけ浜松らしいものをという基準で地元出身の皆さんが意見を出し合って裏面にある語を選び,それに響きが面白いものや有名なものをさらに足し合わせて表の面を仕上げたそうです。平成23年4月から発売し,販売店や買った人からはなかなか面白いという反響があるということです。
改めて箱のデザインを見てみると,「静岡浜松 遠州浜松弁クッキー」とあり,市のマスコットキャラクター・はままつ福市長「出世大名 家康くん」がお城の側に立ち,「浜松弁はこんなにいっぱいあるんじゃ」と言っています。【写真1】
周りには当地の代表的な産物のオートバイ・日本茶,それに浜名湖に立つ鳥居のイラストが配してあります。あちこちに音符が踊っており,家康くんの袴が鍵盤になっているのは楽器の街だからですが,紋付もよく見るとミカンの紋様になっています。これもいかにも静岡らしさを表しています。あれぇ,浜松と言えば浜名湖のうなぎが有名なのに……と思ってよ~く見てみたら,家康くんの頭のちょんまげがうなぎになっていました。
家康くんは「ゆるキャラグランプリ2013」では惜しくも2位でしたが,「同2015」でついに第1位を獲得して,念願の天下を取りました!
なお,方言名のお菓子は,第301回,第312回,第320回,第348回などを参照してください。第301回にはそれ以前の例へのリンクがあります。
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