杉並区が協力して8年前(2005年)に「沖縄タウン」が生まれました。ほかにも同じようなタウンは、東京、神奈川、大阪などに何カ所かあります。これらの地域は、もともと沖縄出身者が住んでいたり、空き店舗があったりしてできたそうです。
有限会社片桐酒販さんのお店「片桐酒店」は沖縄タウンの入口にあります。お父さんが酒店を開いたという片桐ちえ子さん(昭和10年生まれ)にお話を伺いました。この店舗は1930(昭和5)年からありますが、タウンに貢献するために8年前から店頭に沖縄のお酒をおいて、挨拶などを沖縄方言で表示するようにしました。
長寿健康ブーム、2001年から始まった「ちゅらさん」、団塊世代の新天地などの理由から沖縄の魅力とあいまって沖縄方言が全国に知られるようになりました。ちえ子さんも、かつて沖縄方言を勉強したとのことです。お店で買った「うっちん茶」には、「おばぁの教え 健康・習慣」「おばぁが言うなら間違いないさぁ~」と書かれています。
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店内にはお手製の挨拶ことば「いっぺーにへーでーびる」【写真1】が飾られています。「いっぺー」は「とっても」「本当に」の意味です。「にへ(ふぇ)ーでーびる」は、「にへ(ふぇ)ーど」(ありがとう)に「で(れ)ーびる」(です・ございます)がついた丁寧語です。「ニヘデビール」というビールもあります。同輩や目下には「にへ(ふぇ)ー・ど」「かふーし・ど」(ありがとう)と言います。「かふー」(果報)から転じた表現です。
「まず1杯 おいしいさ~」【写真2】は、ちえ子さんの弟さん(店主)によるものです。「さー」については、Tシャツの例「であるわけさ!」(第17回)、「僕も食べたいさー(食べたいよ)」(第229回)をご覧ください。
「めんそ~れ 大都市場」【写真3】をタウンの会長大橋満明さんに案内していただきました。「めんそーれ」(ようこそ・いらっしゃい)は、沖縄本島を中心に分布する沖縄方言です。公設市場になぞらえて名づけたそうです。大橋さんは青果店を営んでいて、ゴウヤ、ナベラ(ヘチマ)、島唐辛子、四角豆など沖縄の野菜を扱っています。
「ハイサイ!!」【写真4】は、沖縄料理店「沖縄酒場 SABANI」でお許しを得て撮影したものです。男性が使う挨拶ことばで「こんにちは・どうも」という意味で、軽い挨拶とされています。女性は「はいたい」と言います。朝昼夜いつでも使える挨拶ことばですが、「やぁ」などに匹敵するニュアンスがあるので、相手と場面をわきまえて使う必要があります。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。