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第13回 【春秋要約】しゅんじゅうようやく

筆者:
2020年9月28日

[意味]

日本経済新聞の朝刊1面コラム「春秋」を要約し国語力をつける学習・訓練。

[補説]

中小企業診断士試験の第2次試験対策として受験者の間で広がっている。

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「春秋要約」なる言葉を知ったのは4年前のことでした。中小企業診断士試験の第2次試験対策として、受験者の間で日本経済新聞の朝刊1面コラム「春秋」を要約する学習が広まっているのです。中小企業診断士といえば例年約1万5000人が受験する人気資格であり、この話を聞いたときは驚きました。自分の勤め先のコラムが試験対策の教材として使われていることを、全く知らなかったからです。

やり方は、約550字のコラムを読み筆者の主張を40字以内にまとめるというもの。中小企業診断士の第2次試験では、A4用紙2~3枚に記載された企業の歴史や業績を読んだうえで、その企業の強みや弱み、事業の改善案などを100字程度にまとめる設問があります。この対策として春秋を要約するトレーニングが効果的だとされているのです。新聞1面のコラムなので休刊日を除き毎日掲載され、文章には時事の話題も盛り込まれていますので、継続して行う教材として適しているのでしょう。なぜ朝日新聞の「天声人語」や読売新聞の「編集手帳」ではないのかといえば、経済新聞なので企業情報も得られる利点があるからなのだそうです。

こうした学習を補完する活動を行っている団体もあります。2017年に設立した日本ビジネス要約協会では、春秋を題材にした要約力養成講座や、要約力を客観的に測る検定試験を実施。社員研修として活用する企業も増えてきました。簡潔で分かりやすく伝える能力は中小企業診断士に限らず、ビジネスの現場で広く求められているということなのですね。ちなみに同協会と日本経済新聞社は無関係です。

2020年度の中小企業診断士第1次試験は8月25日に合格発表があり、5005人が突破しました。第2次試験の筆記試験は10月25日で、受験者の皆さんはいままさに春秋要約に励んでいる時期だと思います。受験対策に電子版の無料記事を活用することを推奨している人もいるようですが、ここはぜひ購読のうえ合格を勝ち取ってください。春秋以外の新聞記事もきっと役立つはずです。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

毎月最終月曜日更新。