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英語辞書攻略ガイド (2)

2008年 4月 8日 火曜日 筆者: 関山 健治

電子辞書より速く冊子辞書を引く方法

新学期が始まりました。真新しい辞書を携え,重いなあと思いつつも,これから始まる大学生活に胸をふくらませていた頃のことが昨日のように思い出されます。しかし,最近は電子辞書の普及で,辞書を小脇に抱える学生はほとんど見なくなりました。平成生まれの学生の中には,冊子辞書を全く引いたことない者すら珍しくありません。

電子辞書を使っている学生は,口を揃えて「紙の辞書よりも速く引ける」と言いますが,本当にそうなのでしょうか? 電子辞書がそれほど普及していなかった頃,私の英語の授業で,「冊子辞書派」の学生と「電子辞書派」の学生で,単語の速引き競争をしたことがあります。成績が学年トップのある学生は,「冊子辞書派」の一人でしたが,1つの単語を平均5秒程度で引き,「電子辞書派」の学生で最も速い学生をしのぐタイムでした。これには電子辞書を使っていた学生も驚いていましたが,冊子辞書は,使えば使うほど速く引けるようになり,使い慣れた冊子辞書は電子辞書よりもはるかに速く引けることはあまり知られていません。

盗難等のリスクや辞書指導上のメリットを考え,校内では冊子辞書を使わせるようにしている学校も少なからずあると思いますが,生徒に「紙の辞書は引くのに時間がかかるから嫌だ」と苦情を言われる前に,次のような辞書引き競争をしてみてはいかがでしょうか?

Step 1:アルファベットの相対的な位置関係を頭に入れる

冊子辞書はアルファベット順に並んでいますので,アルファベットの順番を(「キラキラ星の歌」を口ずさむことなく)直感的に頭に入れておくと速く引けます。

まずは,任意のアルファベットが,前半(A~M)か後半(N~Z)のどちらにあるかを反射的に答えられるように練習させるといいでしょう。教員が「G」と言ったら,「前」と答えるようなゲームをしてみてはどうでしょうか。なお,特定の冊子辞書を一括採用している高校の場合は,その辞書の爪見出しの分け方に合わせるといいでしょう。たとえば,『ウィズダム英和辞典』なら「前半」をA~L,「後半」をM~Zにすると分かりやすいです。

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これができるようになったら,アルファベットを大まかに四等分(A~G, H~L, M~R, S~Z)して,「最初」「前半」「後半」「最後」のどこにあるかを答える練習を,同様にしてみましょう。

冊子辞書を引くのが遅い人は,たとえばgearという語を引くときもABCDEFG. . . と「キラキラ星の歌」を口ずさんで,爪見出しの中から「G」を見つけ,次も同様にABCDE. . . と唱えながら「G」の項のページを1ページずつめくっていってGE. . . で始まる語が出ているページにたどり着く,というようなことをしています。これでは,1つの単語を引くのに20秒以上かかることも珍しくありませんし,長い単語ほど時間がかかるので,学年が進むにつれて辞書を引くのが嫌になってしまうでしょう。

「キラキラ星の歌」を頼りにしなくても,アルファベットの順序が直感的に分かるようになると,次にふれるような,だいたいの見当をつけてページを開くことができるようになり,今までの半分の時間で辞書が引けると言っても過言ではありません。

Step 2:Step 1の位置関係をもとに,引きたい単語が出ていそうなおよその場所を見当をつけて開く

たとえば,streetを引くとき,「S」の最初のページからめくっていったら日が暮れてしまうでしょう。「T」がアルファベットの最後のほうだと分かれば,Sの爪見出しの後ろのほうを見当をつけて最初から開けば,streetにかなり近いページになっているはずです。その後は,「柱」とよばれる,ページ左右の語を見ながら,求める語の出ているページを探すと速く引けます。

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このような「アナログ引き」は冊子辞書を速く引く基礎技能ですので,「準備体操」を兼ねて毎回の授業の最初の数分を使って練習させてみてはいかがでしょうか? たとえば,教員が単語を言い,学生は載っていそうな場所の見当をつけてパッとページを開きます(チャンスは1回だけで,一旦開いたページから移動することはできません)。開いたページと,実際に単語の出ているページの差が最も小さかった学生が優勝になります。クラス全員で競争すると盛り上がります。慣れてくると,一発でその単語が出ているページを開くことができる学生も出てきますので,ボーナスポイントを与えて表彰してはいかがでしょうか?

★電子辞書と冊子辞書はアナログ時計とデジタル時計の関係

電子辞書と冊子辞書は,CDと(アナログ)レコードの関係と同じだと言った人がいました。わずか数年でレコードがCDに取って代わったように,辞書もこれからは電子辞書一色になるのではないかということなのでしょうが,私はそうは思いません。

アナログとデジタルで比較をするのなら,むしろ時計の関係に近いと言えます。デジタル時計が出てきても,直感的におおよその時間が分かるアナログ(針式)時計は全く廃れていません。冊子辞書には到底真似できない電子辞書のメリットもありますが,それは,持ち歩きが困難な大辞典が複数収録されているとか,電子辞書独自の検索ができるといったことであり,高校,大学の英語教育の現場でよく言われる検索速度については,慣れてしまえば両者に大きな違いはないように感じます。

前述のように,電子辞書より速く冊子辞書を引くには多少の練習が必要ですが,毎日の英語学習で辞書を頻繁に引く習慣をつけることで,知らず知らずのうちに速く辞書が引けるようになるということは,楽器やスポーツの練習とも共通するところがあります。さらに,最近の冊子辞書には,最新の電子辞書でさえ真似できない様々な特徴があり,うまく使いこなせば日常の授業や受験勉強に非常に役立ちます。

次回は,電子辞書にない,冊子辞書独特の特徴を紹介し,自分にあった辞書を選ぶためのポイントをいくつかお話ししたいと思います。


【筆者プロフィール】

関山健治(せきやま・けんじ)
1970年愛知県生まれ。南山大学大学院外国語学研究科英語教育専攻修士課程修了(応用言語学),愛知淑徳大学大学院文学研究科英文学専攻満期退学(英語辞書学・語用論)。現在,沖縄大学法経学部准教授。

著書に『辞書からはじめる英語学習』(2007,小学館),『ウィズダム英和辞典第2版』(共同執筆,三省堂,2006),訳書に『英語辞書学への招待』(共訳,大修館書店,2004),『コーパス語彙意味論』(共訳,研究社,2006)などがある。


【編集部より】
新学期にあたり,英語辞書界にこの人ありと言われる関山健治先生に,英語の辞書に関する有益な情報を短期集中連載していただきます。

2008年 4月 8日