地域語の経済と社会 第15回
2008年 9月 20日 土曜日 筆者: 大橋 敦夫地域語の経済と社会―方言みやげ・グッズとその周辺―
第15回「一茶の『方言グッズ』」
小さなものや、か弱いものにも優しい目を向けて、たくさんの句を作った小林一茶。今日でも親しまれている作品も、多くあるなか、次の一句も有名なものの一つですね。
我と来て 遊べや 親のない雀
作家の丸谷才一氏は、この句についての「文学的大発見」を語っています(同氏『低空飛行』新潮文庫、1980.5 p.264-265)。
彼女(筆者注:酒場の女の子)と同じアパートにゐる家に小さな男の子がゐて、向ひのアパートにも同じ年ごろの男の子がゐる。後者が前者のところへ、毎日、遊びに来るのだが、奇妙なふしで、「遊べや!」と叫ぶ。それがどうしてもをかしくて仕方がない。
「両親は信州の人なんですつて」
とその娘は言ひ添へたのだ。
ぼくはこの話を聞いたとき、何か頭脳がチカチカと刺激を受けたやうに思つたのだが、一瞬早く、ぼくの向ひにゐた年増が言つた。
「ほら、一茶にあるぢやない。『われと来て遊べや親のない雀』」
ぼくはそれを聞いて、これは全面的に正しいぞと思つたのである。
(中略)
その後、調べたところでは、「遊べや」が信州の子供のきまり文句だと指摘してゐる評釈はやはり見当らないやうである。つまりこれは文学的大発見なのだ。
丸谷説によると、「遊べや」の「や」は、切れ字云々の前に、今日の我々信州人も使っている「出かけようや」の「や」と同じということです。
さあ、大変。有名な句だけに、あるわ。あるわ。一茶記念館(長野県上水内郡信濃町)の売店や、周辺の土産物品店では、この句をあしらった品物がすぐに目に留まります。鉛筆・色紙・短冊・絵はがき・茶ぶきん・湯呑み・貯金箱・句碑など、「方言グッズ」の種類は、多岐にわたります。方言は一か所ではありますが、これだけ集まるとなかなかの迫力です。
なお、現在では、丸谷説も支持者があるようで、一茶研究者の評釈でも方言説が取り上げられています。
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【筆者プロフィール】
言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics
井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。
(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)
大橋敦夫(おおはし・あつお)
上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学文学部国文学科、同大学院国文学専攻博士後期課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。
【編集部から】
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載の始まりです。
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2008年 9月 20日







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