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『三省堂国語辞典』のすすめ その54

2009年 2月 11日 水曜日 筆者: 飯間 浩明

フツーにむずかしい新用法。

【ふつうにおいしい】
【ふつうにおいしい】

 「この服、ふつうにかわいいね」という表現は、「だれが見てもかわいい」という意味だと教えられたのは、2001年のことでした。変わった使い方が出てきたとは思いましたが、細かいニュアンスまではよく分かりませんでした。

 後に、この「ふつうに」の意味について、授業で大学生たちに聞いてみました。すると、「だれが見ても」という意味でいいと言う人もいれば、「非常にではないが、わりと」の意味だと言う人、「標準程度に」だと言う人もいました。解釈がこれほど分かれるようでは、このことばは意味伝達の役に立つのかどうか、心配になります。

 実際、「ふつうに」の新しい用法は、意味の取りにくい場合がよくあります。タレントの山口智充さんが、テレビ番組でクイズの答えを間違えた時、次のように言いました。

 〈はずれた! ちょっと、ふつうにショックですね。〉(NHK教育「たっぷり見せます!学校放送のツボ」2004.10.30 23:00)

【本の説明もさまざま】
【本の説明もさまざま】

 このせりふの意味を学生に聞いてみると、またしても意見が分かれました。「だれもがこういう場合に感じるのと同様にショックだった」「演技でなく、本当にショックだった」「ちょっとショックだった」などの意見がありました。

 これらの意見は、必ずしも互いに対立するとは言えません。むしろ、ここでの「ふつうに」は、これらの意味を漠然と指すものでしょう。「だれもがごく自然に感じる程度にはショックだった」とまとめられるものです。

 『三省堂国語辞典 第六版』では、これを次のように短く記しました。

 〈ごく自然に考えて。わりあいに。「―に おいしい」〉

【「お前ふつうに変だよ」】
【「お前ふつうに変だよ」】

 一方、程度が問題にならない場合もあります。ドラマで、ハンバーガー店の女性たちが「独身のいい男がいない」と話していると、店長が来て、一言つぶやきました。

 〈ぼくもふつうに独身ですけど……。〉(日本テレビ「プリマダム」2006.4.19 22:00)

 これは、「意外でも何でもなく、当然独身です」という感じです。第六版では、このような例に対応するため、もうひとつのブランチ(意味区分)を立てました。

 〈当然(であるかのように)。「ぼくも―に独身ですけど」〉

 この意味で、「ぼくはふつうに試験に落ちた」などと使われます。

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筆者プロフィール

【飯間先生の新刊『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』】飯間浩明(いいま・ひろあき)
 早稲田大学非常勤講師。『三省堂国語辞典』編集委員。
 早稲田大学文学研究科博士課程単位取得。専門は日本語学。古代から現代に至る日本語の語彙について研究を行う。NHK教育テレビ「わかる国語 読み書きのツボ」では番組委員として構成に関わる。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波書店)、『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(監修・本文執筆、MCプレス)、『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門』(ディスカヴァー21)がある。
URL:ことばをめぐるひとりごと(http://www.asahi-net.or.jp/~QM4H-IIM/kotoba0.htm)

2009年 2月 11日