明解PISA大事典:発問2 「解釈」というか「推論」
2009年 6月 26日 金曜日 筆者: 北川 達夫第8回 発問2:「解釈」というか「推論」
「解釈」といっても、英文や古文の解釈のように「意味や内容を明らかにして解きほぐすこと」ではない。欧米型の読解教育で「解釈」といえば「推論」を意味するのである。
実は「情報の取り出し」と「解釈」とは表裏の関係にある。
前回の事例を復習しよう。「隣国の独裁者が重病らしい」という風説について、それを裏づけるような事実――たとえば「最近、独裁者は公的な場に姿を現していない」「某国の医師団が招聘された」などの情報を集める活動がPISAの「情報の取り出し」であった。
これに対して、PISAの「解釈」とは、「最近、独裁者は公的な場に姿を現していない」「某国の医師団が招聘された」などの情報を手がかりにして、独裁者がどのような状態にあるのかを推理する活動なのである。
PISAの読解力の発問風にいえば、
◆情報の取り出し
「この課題文を読んだ人が『独裁者は重病らしいね』と言いました。この人の考えを裏づけるような事実を課題文から挙げてください」
◆解釈
「独裁者はどのような状態にあると思いますか。そのように考えた理由を課題文の内容にふれながら説明してください(*)」
つまり、(仮定された)結論から前提となる事実を導き出すのが「情報の取り出し」。それとは逆に、前提となる事実から結論を導き出すのが「解釈」ということだ。これは「情報の取り出し」が帰納的推論であり、「解釈」が演繹的推論であることを意味する。
難しい言葉はさておき、要するに「情報の取り出し」にせよ「解釈」にせよ「推論」なのである。前回のうちに「情報の取り出しは(帰納的)推論である」と定義してもよかったのだが、「解釈」と表裏の関係にあることを強調したいがために今回まで引っぱってしまった。もうしわけない。
PISAの背景にある欧米型の読解教育において、「推論」は特に重視されている技能である。もちろん「推論」をするためには、まずテキストの内容を文字通り正確に読み取ることが必要不可欠である。ただ、文字通り正確に読み取ることは必要だが、文字通りにしか理解できないようでも困る。「まんじゅうこわい」と書いてあるからといって、本心がその通りとは限らないからだ。作者や筆者の真意は必ずしも明確に書かれてはいない。そこを読み取るために「推論」が必要なのである。
物語文を読む場合であれば、主要な登場人物の言動や心情について「推論」を積み重ねる。主要な出来事の背景事情について「推論」を積み重ねる。「推論」を積み重ねるうちに、すべての「前提」と「結論」の基礎をなす「大前提」の存在が明らかになってくる。ここでいう「大前提」とは、作者の主張であり、主張の背景にある発想であり、発想の根底にある価値観のことだ。
たとえば桃太郎のような勧善懲悪の物語から、「主人公は正義の存在だから、不義の存在に打ち勝ったのだ」という主張を見出す。この主張は「正義は不義に勝つ」という発想を大前提としている。さらに、この発想の根底には「正義」を第一に考える価値観が大々前提として横たわっている。もちろんこれは推論の連鎖であって、絶対的なものでもなければ、確定的なものでもない。とはいえ、このようにして作者の真意(と思われるもの)を明らかにしていくのである。
作者や筆者の真意を受け止めて初めて、それを評価し、自分の主張へとつなげていくことができる。次の「熟考と評価」の活動に移ることができるのである。
「熟考と評価」については次回――。
* * *
(*)「課題文の内容にふれながら」というのはPISA日本語版独特のもので、「refer to the text」の訳句。「課題文から根拠となる事実を挙げて」という意味である。それならば最初から「課題文から根拠となる事実を挙げて」と訳せばよさそうなものだが、これは「use evidence from the text to support (your answer)」の訳句なので、そこまでやったら「日本人に有利なように意訳しすぎ」になってしまう。
* * *
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【プロフィール】

北川達夫(きたがわ・たつお)
教材作家・教育コンサルタント・チェンバロ奏者・武芸者・漢学生
(財)文字・活字文化推進機構調査研究委員
日本教育大学院大学客員教授
1966年東京生まれ。英・仏・中・芬・典・愛沙語の通訳・翻訳家として活動しつつ、フィンランドで「母語と文学」科の教科教育法と教材作法を学ぶ。国際的な教材作家として日芬をはじめ、旧中・東欧圏の教科書・教材制作に携わるとともに、各地の学校を巡り、グローバル・スタンダードの言語教育を指導している。詳しいプロフィールはこちら⇒『ニッポンには対話がない』情報ページ
著書に、『知的英語の習得術』(学習研究社 2003)、『「論理力」がカンタンに身につく本』(大和出版 2004)、『図解フィンランド・メソッド入門』(経済界 2005)、『知的英語センスが身につく名文音読』(学習研究社 2005)、編訳書に「フィンランド国語教科書」シリーズ(経済界 2005 ~ 2008)、対談集に演出家・平田オリザさんとの対談『ニッポンには対話がない―学びとコミュニケーションの再生』(三省堂 2008)、組織開発デザイナー・清宮普美代さんとの対談『対話流―未来を生みだすコミュニケーション』(三省堂 2009★新刊★)など。
『週刊 東洋経済』にて「わかりあえない時代の『対話力』入門」連載中。
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【編集部から】
学習指導要領の改訂に大きく影響したPISAってなに?
PISA型読解力ってどんな力なの?
言語力、言語活動の重視って? これまでとどう違う?
現代の教育観は変わってきたのか。変わってきたとしたら、そこにどんな経緯があるのか。
国際的に活躍する教材作家である北川達夫先生がやさしく解説する連載「明解PISA大事典」。金曜日に掲載しています。








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