ドイツのお菓子(4)―カンゾウ(甘草)―
2009年 12月 14日 月曜日 筆者: 石井 正人クラウン独和辞典―編集こぼれ話―(74)
Lakritze「カンゾウ(甘草)」の話をもう少し続ける。
もう亡くなったが、一世を風靡したアメリカの文化人類学者マーヴィン・ハリスは、大学に入学したばかりの学生たちに異文化接触の実体験をさせるため、日本から取り寄せたイナゴの佃煮のビンを回し、全部食べるなよ、後の人に残しておけよ、と言って、試食させたそうだ。アメリカ人の学生には昆虫を食べるということに対する拒否感が強く、毎回教室が大騒ぎになったそうである。これを真似て私も、ときどきドイツ文化関係の授業で、これが食べられないとドイツ文化は分からないよ、と言い添えて、Lakritze入りの黒いグミを学生に回している。イナゴやザザ虫の佃煮よりは遙かに罪のないいたずらだと思うが、どうだろうか。
ニュルンベルク名物のクリスマス菓子Lebkuchen「レープクーヘン」や、アーヘン名物の焼き菓子Printe「プリンテ」でも似たような効果が得られるが、やはりLakritzeほどのインパクトはない。ポイントは要するに、馴染みのない強い香料を使った食べ物から受けるショックである。においをかいだだけでみな顔をしかめ、黒いグミを口にしようという勇敢な学生にまだお目にかかったことがない。
しかし先にも述べたとおり、ヨーロッパでLakritzeは今でも甘味として好まれていて、Lakritzeを使った様々のお菓子のヴァリエーションがあるようだ。強い香料というのは、慣れるとくせになるもので、日本人にも少数だがその域に達した通人がいる。それにそもそも醤油には欠かせない成分なのだそうで、日本人なら毎日口にしているものなのだ。
妻の記憶ではコクトーの『恐るべき子供たち』の中に主人公の少年がカンゾウをおやつにしゃぶるシーンがあるそうだ。あの黒いグミが好きでたまらず、信じられない量を三日三晩食べ続け、ついに死んでしまったドイツ人の話さえ、何かの世界珍実話集で読んだことがある。何と言っても漢方薬で珍重されるほどのものだから、過剰摂取による副作用にも注意が必要なのだ。オチをつけるようだが、確かこのエピソードの次に載っていたのが、タイでは大変好まれるタガメ(昆虫)のスナックを食べ過ぎ(一気に大袋二つ)、タガメの残留農薬にあたって死亡したタイの労働者の話だった。
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【筆者プロフィール】
石井 正人(いしい・まさと)
千葉大学教授
専門はドイツ語史
『クラウン独和第4版』編修委員
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【編集部から】
2008年2月に『クラウン独和辞典』(第4版)が刊行されました。日本初、「新正書法」を本格的に取り入れた独和辞典です。編修委員の先生方に、ドイツ語学習やこの辞典に関するさまざまなエピソードを綴っていただきます。







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