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‘Wait a moment.’―『英語談話表現辞典』覚え書き(56)―

2011年 9月 29日 木曜日 筆者: 内田 聖二

前回は‘Let me see.’を取り上げましたが、今回は類似表現の‘Wait [Just] a moment [minute / second].’を考えてみます。

‘Wait a moment.’の表現の基本は文字通り相手になんらかの行動を止めさせたり、待たせたりすることにあります。本辞典であげた語義1がそれに相当します。

1 〈相手のしようとする行動を止めて〉ちょっと待って:“I’m going to open this bottle now.” “Wait a second. I’ll get a glass first in case it froths over.” 「じゃ, このびんを開けるよ」「ちょっと待って. 泡があふれ出るといけないから先にグラスを持ってくるよ」/ “I’ll go now.” “Wait a moment. You’re leaving your lunch behind, aren’t you?” 「行ってきます」「ちょっと待って! お弁当忘れていない?」.

この語義1から相手の話や議論を中断させる語義2の用法へと発展しています。

2 〈抗議して〉おいおい待てよ:“The taxi driver wants 23.50.” “Wait a moment! He said he would only charge us 20 for the trip!” 「タクシー代は23ドル50だって」「おいおい待てよ. 20ドルしかかからないって運転手は言ってたじゃないか」.

実際の行動、話などの中断から、さらに、思考の中断まで求めるのに用いられます。次の語義3と4がそれに当たります。

3 〈思い出そうとして〉えーっと:“Look at that yacht over there. It’s beautiful, isn’t it?” “Wait a minute, isn’t that the Golden Angel?” 「あのヨットを見てごらん. きれいだね」「えーと, あれはゴールデンエンジェル号じゃなかったっけ?」.

4 〈何かおかしいことに気づいて〉ちょっと待ってください:“Just a minute.” “What’s the matter?” “I dropped my car keys.” 「あれ, ちょっと待って」「どうしたの?」「車のキーを落としたみたい」/《目的地に向かって歩いているときに》 “Just a minute.” “Why?” “I think we’re walking in the wrong direction. Let’s look at the map.” 「ちょっと待って」「どうしたの?」「道を間違っていると思うわ. 地図を見てみましょうよ」.

‘Wait [Just] a moment [minute / second].’と‘Let me see’は意味は似ていますが、後者は「見させてほしい」「考えさせてほしい」といったように自分の希望を相手に要請することが中核的意味で、このふたつの表現を並列して使うことも可能です。次は三省堂コーパスからの例です。

‘The third isn’t good for me. What about the day after that?’ ‘The fourth?’ ‘Yes, Wednesday, the fourth.’ ‘Hmm . . . let me see. Just a moment, please. Uh . . . yes, that’s all right for me.’「3日は都合が悪い。その次の日はどうかな」「4日?」「そう、4日の水曜日」「えーと、予定をみてみるので、ちょっと待って。うん、大丈夫です」

なお、‘Wait a moment [minute / second].’の形で三省堂コーパスの「口語」で文頭にくるものを検索しますと、minute の頻度が一番高く、次いで second,moment となっています(BNCコーパスではminute, moment, secondの順)。また、minute は米語での割合も高いのですが、second に至っては米語107例、英語2例と米語が圧倒的です。一方、動詞が省略された、‘Just a moment [minute / second].’では、moment と minute の頻度が拮抗しています。また、second の頻度はその半分ほどになっています。

【筆者プロフィール】

内田聖二(うちだ・せいじ)
奈良女子大学教授
専門は英語学、言語学(語用論)
主な業績:『英語基本動詞辞典』(1980年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基本形容詞・副詞辞典』(1989年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『英語基礎語彙の文法』(1993年)英宝社(衣笠忠司、赤野一郎と共編著)
『関連性理論―伝達と認知―』(初版1993年、第2版1999年)研究社(共訳)
『小学館ランダムハウス英和大辞典』(第2版1994年)小学館(小西友七・安井稔・國廣哲弥・堀内克明編、分担執筆)
Relevance Theory: Applications and Implications, 1998, John Benjamins.(Robyn Carstonと共編著)
『英語基本名詞辞典』(2001年)研究社(小西友七編、分担執筆及び校閲)
『ユースプログレッシブ英和辞典』(2004年)小学館(八木克正編集主幹、編集委員)
『新英語学概論』(2006年)英宝社(八木克正編、共著)
『思考と発話』(2007年)研究社(共訳)
『子どもとことばの出会い』(2008年)研究社(監訳)
『語用論の射程』(2011年)研究社

【編集部から】

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2011年 9月 29日