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Get Up I Feel Like Being A Sex Machine(1970/全米No.15)/ジェームス・ブラウン(1933-2006)

2013年 3月 27日 水曜日 筆者: 泉山 真奈美

歴史を彩った洋楽ナンバー~キーワードから読み解く歌物語~ 第75回

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歌詞はこちら

http://www.azlyrics.com/lyrics/jamesbrown/getupifeellikebeingasexmachine.html

曲のエピソード

アフリカン・アメリカン男性=セックスが強い、というある種の神話とも妄信ともつかない、その実、何の根拠もない言い伝えは遥か昔からあったが、それを逆手に取った(殊更にそのことを強調した)曲や映画は、昔から少なくなった。映画で言えば、メルヴィン・ヴァン・ピーブルズ(Melvin Van Peebles/1932-)の監督/脚本/主演作品『SWEET SWEETBACK’S BADASSSSS SONG』(1971)などがその好例。“The Godfather of Soul”の他、複数の異名を取ったJBことジェームス・ブラウンの代表曲のひとつ「Get Up I Feel Like A Being A Sex Machine」(邦題:セックス・マシーン/R&Bチャートでは3週間にわたってNo.2)も、その例に漏れない。

こう言っては御大JBに対して甚だ失礼だが、“ちゃんと歌っている”ごく一部の曲――「Try Me」(1958/R&BチャートNo.1,全米No.48)、「It’s A Man’s Man’s Man’s World」(1966/R&BチャートNo.2,全米No.8)など――を除いては、その歌詞はほとんどが掛け声か決まり文句だらけで、物語性は皆無である。実のところ、この「Get Up I Feel Like Being A Sex Machine」にも物語性はない。が、前回のロッド・スチュワート「Da Ya Think I’m Sexy?」も、自分のセクシーさ=異性をムラムラさせることを声高に歌っており、そういう意味では双方に通底するものがあるのに、こうまで異質な曲になってしまっていることがふいに不思議に思えてきてしまい、今回、「セックス・マシーン」を採り上げることにした。シロいスーパースターとクロいそれとの性的魅力の違いは何なんだろう、と。なお、ネット上の歌詞サイト及び他の様々なサイトによっては、タイトルがカッコ付きの「Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine」となっているものもあるが、曲の真のオリジナルであるシングル・ヴァージョンのタイトルは、カッコなしが正しい。1曲の演奏時間が長いため、シングル盤ではA面=パート1,B面=同2に分かれている。そのことに理由らしい理由はない。単純に、1970年当時はまだ12″シングルという概念がなく、商品化されていなかっただけだ。そういう意味では、JBは12″シングルを先取りしていたとも言える。

井筒和幸監督作品『ゲロッパ!』は、西田敏行さん演ずる熱狂的なJBファンのヤクザの親分が主人公。映画自体も面白かったが、何よりもタイトルが秀逸だ。確かに、数あるJBの決まり文句のひとつは、「ゲロッパ!」(もしくは「ゲロンパ!」/筆者は昔、これを「ゲロンパ!」とカタカナ表記してあるのを目にした記憶がある)と聞こえる。なお、同映画の英語のタイトルを『GET UP!』という。カタカナ起こしの邦題の逆パターンみたいで面白い。JBが“Get up!”を“Get upper!”に近い発音で口にしているだめ、カタカナの「ゲロッパ!」に聞こえるのだろう。掛け声がカタカナ化(?)してしまうほど、JB節は強烈である。その他、“Hit me!”,“Look here!”,“Good God!”なども有名。

曲の要旨

野郎ども、ダンス・フロアに繰り出して、精根尽き果てるまで踊って踊って踊りまくれ。セックス・マシーン(=精力絶倫男)よろしく、果てることを忘れてそのままずっと踊ってみせろよ。ただ踊るんじゃない、踊りに感情を込めるんだ。そうやって俺の緊張感を解きほぐして、俺の身体を火照らしてくれよ。キメる時にはちゃんとキメてみせてくれなきゃな。いいぞ、その調子で続けてくれよ。今度は女たちの番だな。思いっ切り腰を振って踊れ。腰をセクシーに揺さぶって、男たちを挑発する踊りをやってみせてくれよ。

1970年の主な出来事

アメリカ: オハイオ州で反戦デモに参加していた大学生4名が射殺される。
日本: 赤軍派によるよど号のハイジャック事件が世間を震撼させる。
世界: ビートルズ解散のニュースが世界中に衝撃を与える。

1970年の主なヒット曲

Let It Be/ビートルズ
American Woman/ゲス・フー
Make It With You/ブレッド
War/エドウィン・スター
I’ll Be There/ジャクソン・ファイヴ

Get Up I Feel Like Being A Sex Machineのキーワード&フレーズ

(a) right on
(b) I got mine and don’t worry about his
(c) money maker or maney-maker

恒例の思い出話だが、その昔、筆者の旧友の弟さんがこの曲の日本盤シングルを持っていた。筆者が「セックス・マシーン」の日本盤シングルの実物を目にして手に取ったのは、後にも先にもその時ただ一度だけ。忘れられないのは、ピクチャー・スリーヴ(ジャケ写)に油性のペンで男性器のイラストが描いてあり、ご丁寧にも“ブラック・パワー”のカタカナ文字が添えられてあったこと。あれには思わず苦笑してしまった。もちろん、旧友の弟さんが自分でイタズラ書きをしたのである。アフリカン・アメリカン男性=セックスが強い、という妄信は、日本人の間にも浸透しているのだな、と痛感したものだ。

アメリカで1950年代から用いられていたと言われているスラング的表現(a)は、1960年代~70年代にかけて、アフリカン・アメリカンの人々の間で大流行した決まり文句のひとつ。意味は、「いいぞ!」、「その調子(で続けろ)!」、「その通り!」など。最もピッタリの日本語は「そうこなくっちゃ!」だろうか。この曲では、不特定多数の人々(特に“セックス・マシーン”にならんとする男たち)に“カッコよく踊ること”、つまり“異性の目を惹き付けるように踊る”ことを促しているわけだから、「いいぞ、その調子でどんどん踊れ!」というニュアンスだろう。また、(a)がアフリカン・アメリカンの人々の間で大流行した時期と公民権運動が隆盛した時期とが重なり合っているのは、決して偶然ではない。(a)を違う英語に置き換えるなら、次のようになるだろうか。

♪Keep on doing what you’re doing!(今やってることをそのまま続けろ!)
♪Keep up the good work!(その調子でやり続けてくれ!)
♪I love the way you do the things you do!(いいねえ、その調子で頼むよ!)

(b)は、思わせぶりなフレーズであると同時に、かなり即物的なフレーズでもある。ここは様々な解釈――例えば「俺には俺流の踊り方があるから、他の男の踊りなんて気にするな」とか――ができるが、全体のテーマを考えた場合、“mine”はイコールこの曲の主人公=JBの男性器であり、“his”は他の男のそれを指していることは明らか。だからこその“a sex machine”なのである。(b)を意訳するなら、「他の男のアソコには目をくれるな、俺のアソコだけを味わっていればいい」。この場合、不特定多数の異性に向かって言っているフレーズである。筆者は、ここのフレーズが“アフリカン・アメリカン男性=セックスが強い”という妄信を最も逆手に取った箇所であると思う。更に個人的見識を述べさせてもらうなら、シロいスーパースター的シンガーの曲では、(b)のような婉曲的にして直接的な表現には、滅多にお目に掛かれない。シロいアーティスト及びソングライターに較べて、クロい人々が“make love”に匹敵する口語的もしくはスラング的表現を歌詞で多用する傾向にある、と感じるのは筆者だけだろうか? “make love”は、確かに美しい英語のイディオムだ。それにピッタリくる日本語がない、というのもまた、英語表現の面白いところだとも思う。しかしながら、必要以上に多用されると、筆者はその歌詞に飽きてしまう。ナントカのひとつ覚えみたいに“make love”を延々とくり返されると、途端にその歌詞が無粋に感じられてしまうから。“sexy”もまた然り。「俺のことセクシーだと思う?」と歌われるより、「俺のこと、セクシュアル(sexual)だと思う?」と歌われた方が、何倍も官能的だ。“sexy”という言葉は、どこか陳腐に響く。筆者が忌み嫌っている英単語=“love”よりも、“devotion”の方がずっと詩的かつ深奥であるように。

曲の要旨で、原意を汲み取りつつ意訳して「今度は女たちの番」と記した。その根拠は(c)で、もともとは女性器を指すスラングとして昔から英語圏で用いられていた言葉だが(金の成る木=女性の下半身、とは、実に判り易いスラングである)、もちろん金の成る木は春をひさぐ女性とほぼ同義。そして筆者は、彼女たちのことを心の底から尊崇している。(c)は、1960年代以降、アメリカでは「女性の臀部」を表すスラングとして定着しており、JBは女たちに向かって、(c)で「女の武器を最大限に駆使して男たちを挑発しろ」と促しているのだ。これで、この曲が不特定多数の男女に向けての“セックスを煽る曲”であることがお解り頂けることだろう。

JBのこの曲に対する思い入れはかなり深かったとみえて、亡くなるまでライヴには欠かせなかった。また、1975年には、セルフ・カヴァー「Sex Machine Part I」もレコーディングしている(R&BチャートNo.16,全米No.61/シングル盤のB面はPart II)。もちろん、「ゲロッパ!」と聞こえる“Get up!”も、ステージで口にしていた。

曲の要旨に記した「踊りに感情を込めろ(=ゾクゾクしながら踊れ)=the feeling you got to get」は、ブラック・ムーヴィの鬼才メルヴィン・ヴァン・ピープルズが、来日時に筆者の旧友でフリーランス・ライター兼編集者の女性と一緒に都内某所のクラブに踊りに行った際、まさに口にした言葉だった。曰く「ここの踊りはそうじゃない! 歌詞をよく聴け!! ここはこうやって(と言いながら腰をセクシュアルに揺さぶりつつ)踊るんだ!!! You gotta get the feeling!!!」と。この曲を聴くたびに、筆者は旧友から聞かされたその話を条件反射のように思い出す。そしてそのエピソードを、筆者は生涯、忘れないだろう。

【筆者プロフィール】

泉山真奈美(いずみやま・まなみ)

1963年青森県生まれ。幼少の頃からFEN(現AFN)を聴いて育つ。鶴見大学英文科在籍中に音楽ライター/訳詞家/翻訳家としてデビュー。洋楽ナンバーの訳詞及び聞き取り、音楽雑誌や語学雑誌への寄稿、TV番組の字幕、映画の字幕監修、絵本の翻訳、CDの解説の傍ら、翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座(マスターコース「訳詞・音楽記事の翻訳」)、通学講座(「泉山式 翻訳力×英文法講座」)の講師を務める。著書に『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』、『エボニクスの英語』(共に研究社)、『泉山真奈美の訳詞教室』(DHC出版)、『DROP THE BOMB!!』(ロッキング・オン)など。『ロック・クラシック入門』、『ブラック・ミュージック入門』(共に河出書房新社)にも寄稿。マーヴィン・ゲイの紙ジャケット仕様CD全作品、ジャクソン・ファイヴ及びマイケル・ジャクソンのモータウン所属時の紙ジャケット仕様CD全作品の歌詞の聞き取りと訳詞、英文ライナーノーツの翻訳、書き下ろしライナーノーツを担当。マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイン・オン 40周年記念盤』での英文ライナーノーツ翻訳、未発表曲の聞き取りと訳詞及び書き下ろしライナーノーツを担当した。その他、ジャンルを問わずポップス、ロックの訳詞も手がける。

2013年 3月 27日