タイプライターに魅せられた男たち・番外編第29回

タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(10)

筆者:
2016年12月15日

伊藤事務機タイプライター資料館(9)からつづく)

伊藤事務機の「Rofa」

伊藤事務機の「Rofa」

伊藤事務機タイプライター資料館には、「Rofa」も展示されています。「Rofa」は、ドイツのロベルト・ファビク社(Robert Fabig GmbH)が、1921年から1929年にかけて製造していたタイプライターで、同社の「Faktotum」(「Imperial Typewriter」のライセンス生産)の後継機にあたります。「Rofa」の特徴は、独特のカーブを描くキーボードと、ダウンストライク式という印字方式にあります。「Rofa」では、29キーが3列のカーブ上に配置されており、各キーに3種類の文字が対応しています。伊藤事務機の「Rofa」では、上段のキーはQWERTZUIOP、中段はASDFGHJKL、下段は^YXCVBNM?+と並んでおり、いわゆるQWERTZ配列です。

伊藤事務機の「Rofa」後面

伊藤事務機の「Rofa」後面

プロントパネルの後ろには、本来は29本のタイプバー(活字棒)が、キーボードと同じくカーブを描いて配置されています。ただし、伊藤事務機の「Rofa」では、タイプバーのうち4本が失われているらしく、25本しかありません。タイプバーは、それぞれがキーにつながっており、キーを押すと対応するタイプバーが打ち下ろされて、プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれます。紙の上に印字されるので、オペレータがフロントパネルの向こうを上から覗き込むことで、印字された文字を確かめることができます。

伊藤事務機の「Rofa」のタイプバー(GとFの間にあるはずのTとVが欠けている)

伊藤事務機の「Rofa」のタイプバー(GとFの間にあるはずのTとVが欠けている)

各タイプバーには、3種類の活字が埋め込まれており、下から順に小文字、大文字、数字および記号、となっています。キーボード左端の「Groß」キーを押すと、プラテンが移動して、大文字が印字されるようになります。「Zeich.」キーを押すと、プラテンがさらに移動して、数字および記号が印字されるようになります。この機構により、本来であれば87種類の文字を印字できるのです。なお、伊藤事務機の「Rofa」では、äはQの記号側、öはYの記号側、üはXの記号側に、それぞれ搭載されていますが、大文字のÄÖÜは見あたりませんでした。また、キーボードの右端には「Rück-Taste」キーがあり、逆方向への1文字移動(いわゆるバックスペース)を可能にしています。

伊藤事務機の「Rofa」キーボード左端

伊藤事務機の「Rofa」キーボード左端

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。