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タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(9)

2016年 12月 1日 木曜日 筆者: 安岡 孝一

タイプライターに魅せられた男たち・番外編第28回

伊藤事務機タイプライター資料館(8)からつづく)

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」(Straight Keyboard, Metal Cover Model)

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」(Straight Keyboard, Metal Cover Model)

「Hammond Multiplex」(Straight Keyboard, Metal Cover Model)は、ハモンド・タイプライター社が1916年から1928年にかけて製造していたタイプライターで、ハモンド(James Bartlett Hammond)が発明したタイプ・シャトル機構を搭載しています。「Hammond Multiplex」には、キーボードが曲がっている(Curved Keyboard)モデルと、キーボードが直線的(Straight Keyboard)なモデルがあり、いずれも1913年に製造を開始しましたが、1916年になって、筐体の上面を金属板のカバーでくるんだ(Metal Cover)モデルになりました。伊藤事務機タイプライター資料館に展示されている「Hammond Multiplex」は、直線キーボード金属板カバーモデル(Straight Keyboard, Metal Cover Model)です。

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」背面

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」背面

中央の円筒内部に組み込まれたタイプ・シャトルには、30行×3列=90字の活字が埋め込まれています。伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のタイプ・シャトルでは、上の列には英小文字と,.-;が、真ん中の列には英大文字と?&!:が、下の列には数字とその他の記号が、それぞれ埋め込まれています。各キーを押すと、タイプ・シャトルの対応する活字が紙の方へと回転移動し、紙の背面からハンマーが打ち込まれることで、紙の前面に印字がおこなわれます。

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のキーボード

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のキーボード

伊藤事務機の「Hammond Multiplex」のキーボードは、いわゆるQWERTY配列です。キーボード下段の左右端にある「CAP.」キーを押すと、タイプ・シャトルが少し上がって、真ん中の列の活字(英大文字など)が印字されるようになります。キーボード中段の左右端にある「FIG.」キーを押すと、タイプ・シャトルがさらに上がって、下の列の活字(数字とその他の記号)が印字されるようになります。これにより、90種類の文字を打ち分けることができるのです。左側の「CAP.」キーと「FIG.」キーには、それぞれに銀色のロックキーが付いており、「CAP.」ロック、「FIG.」ロックとして使います。キーボード上段右端のキーはバックスペース、そのすぐ左側のキーはマージンリリースです。

なお、「Hammond Multiplex」では、同時に2枚のタイプ・シャトルを、中央の円筒にセットしておくことができます。タイプ・シャトルの切り替えは、円筒の真ん中にあるツマミを、180度回転させることでおこないます。この機構によって、最大180種類の文字を、「Hammond Multiplex」は打ち分けることができるのです。

【筆者プロフィール】

安岡孝一(やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

http://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

2016年 12月 1日