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曲のエピソード
ネズミが人間を襲うパニック映画『WILLARD』(1971)の続編『BEN』(1972)のテーマ曲で、幼少期のマイケル・ジャクソンが歌っている。この曲が収録されている、マイケル名義のアルバムのオリジナルLPのジャケット写真に写っているのは、当時、彼が実際にペットとして飼っていたネズミ。ところが、後に同アルバムが再発された際には、何故だかジャケット写真からネズミが姿を消していた。
曲ができあがった当初は、ダニー・オズモンド(人気ファミリー・グループのオズモンズのメンバー)がこの曲をレコーディングするはずだったが、共作者のひとりであるドン・ブラックがマイケルにレコーディングさせることを主張した。マイケルにとって、ソロ・アーティストとして初の全米No.1ヒットとなった。なお、ダニーは、幼少期にマイケルが「親友」のひとりに挙げていた人物。この曲が全米チャートでNo.1の座に就いた時、マイケルは14歳の誕生日を迎えたばかりで、全米中のラジオが彼の誕生日を祝ってこの曲をへヴィ・ローテーションで流した、という逸話が残っている。邦題は「ベンのテーマ」。
曲の要旨
みんなは(ネズミの)君を嫌うけど、僕は大好きさ。だって、僕にとって友だちと呼べる相手は君しかいないんだもの。君と出逢う前の僕は独りぼっちで寂しかったよ。何をするにも、どこへ行くにも独りだった僕に、今、ベンという友だちができた。これからは何をするにも一緒だよね。周りのみんなには(ネズミを親友と呼ぶ)僕の気持ちなんて理解できないだろうな。でも、彼らにだって、ベンみたいな親友ができたら、今の僕の気持ちをきっと理解できると思うよ。
1972年の主な出来事
アメリカ: | 6月17日にウォーターゲート事件が発覚。 |
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日本: | 浅間山荘事件が日本中を震撼させる。 |
田中角栄首相が訪中し、日本と中国の国交が回復。 | |
世界: | 東ドイツと西ドイツの国交が正常化。 |
1972年の主なヒット曲
American Pie/ドン・マクリーン
A Horse With No Name/アメリカ
The Candy Man/サミー・デイヴィス Jr.
Alone Again (Naturally)/ギルバート・オサリヴァン
Papa Was A Rollin’ Stone/テンプテーションズ
Benのキーワード&フレーズ
(a) to call one’s own
(b) a friend in someone
(c) a place to go
(d) I/me, us/we
寂しい曲である。何せ、孤独な少年の「たった一人の友だち」が嫌われもののネズミなのだから。この曲が大ヒットしていた頃、マイケル・ジャクソンは人種も世代も超えて大勢の人々に支持される、ナンバー・ワンのアイドルだった。ゆえに、彼は孤独だった。同世代の子供たちは学校が終わると仲間と一緒に遊びに興じ、家族と共に楽しく夕食をとる。そんな生活とは無縁だったマイケルは、ツアー先に向かう飛行機に搭乗するために赴いた空港で行方不明となり、スタッフを手こずらせたこともあったという。多忙であるため、普通の子供のように学校にも通えず(ツアーにも同行する家庭教師がいた)、同世代の子供たちと無邪気に遊ぶなんてのは夢のまた夢。夢を売る商売の子供は得てしてそうした犠牲を払わなければならないものだろうが、後年、マイケルが「自分には子供時代の普通の子供らしい思い出が全くと言っていいほどなかった」と語っているように、彼は幼いながらに孤独感に苛まれていたのだろう。
当時、マイケルが置かれていたそんな状況を知ってか知らずか、「Ben」はアメリカで瞬く間にチャートを駆け上り、遂に首位の座に就いた。あるいは、この曲の歌詞に共感した人々が大勢いたのかも知れない。(a)は、ラヴ・ソングにもよく出てくる言い回しで、次のような使われ方をする。
○I have someone to call my own.(私には自分だけのものと胸を張って言える恋人がいる)
○I’ve got a friend to call my own.(私には他の誰でもない、私だけの親友がいる)
この言い回しが出てくるフレーズには、「私(僕)にもようやくそう呼べる相手ができた」という安心感があり、ちょっぴり感傷的でもある。このフレーズを口にする曲の主人公が、それ以前には孤独だった、ということを知らず知らずのうちに吐露しているからだ。
(b)も然り。例えば、次のようなフレーズが登場する歌詞もある。
○You see a lover in me.
(直訳:あなたは私の中に恋人を見る/意訳:あなたには私という恋人がいる)
“see ~ in someone”に共通しているのは、その人と相手の人の間に、何かしら秘め事を感じさせる点。「第三者には判らなくても、互いに共有する思い」がそこには介在する。“in someone”は、言ってみれば「心の中」であるから、そこにあるのは、目には見えないけれど確かなもの、信じられるもの、心と心のつながり、を表す。
直訳するとちょっと誤訳になってしまうのが(c)。直訳の「行くべきところ」として用いられる場合もなくはないが、ここでは「心の拠り所、逃げ場所」という意味。この短い「君には心の拠り所があるんだよ」というフレーズの中に、主人公の少年から親友のネズミに向けられた憐憫の情が集約されている。そして主人公の少年もまた、“a place to go”を見つけられないまま、寂しく生きてきたことをも示唆。「Ben」の歌詞の中でも、ひときわ胸にグッとくるフレーズだ。当時のマイケルがどうしても埋められずにいた寂しさに思いを馳せる時、このフレーズが心を深くえぐるのだ。
またまた胸に迫るフレーズである。(d)が登場するフレーズは、とてもシンプルなのに奥が深い。ネズミのベンという親友を得る前までは、この少年が独りぼっちだった、という事実を如実に物語るからだ。一瞬、何を言っているのかを理解しにくいフレーズではあるけれど、解ってみると、これまた切ない。
「(話す時や何かをする時は)いつも『僕は』、『僕が』、『僕に』だったのに、今は『僕たち』、『僕たちは』、『僕たちに』って言える」(強調筆者)――非常に示唆的なこのフレーズの真意は、「以前は何をするにも独りだったのに、今ではふたり(僕&ベン=we, us)だからね」と、この少年は喜びいっぱいに言ってるのである。たとえ親友が嫌われもののネズミであろうと、ようやく少年が得た友だちであり、親友であった。少なくとも、マイケルに較べればそこまで孤独ではなかったであろうダニー・オズモンズがこの曲をレコーディングしていたなら、ここまで情感タップリに歌うことはできなかったのでは……と思う。なお、この曲は日本で2005年に放映されたTVドラマ『あいくるしい』のテーマ曲に起用され、マイケルのファンの間でも人気が高い。
マイケルにとって生前最後の全米No.1ヒット曲「You’re Not Alone」(人気R&BシンガーのR. ケリー作)は、個人的には、この「Ben」に対するセルフ・アンサー・ソング(ある曲を歌っていたシンガーが、後にその自分の曲に呼応するかのように歌った曲のこと)ではないか、とずっと思ってきた。同曲の歌詞は、
https://www.google.com/search?&q=You’re+Not+Alone+lyrics
でご覧あれ。表向きは去って行った恋人に対する思いが綴られた失恋ソングだが、“love”を“friendship”に、“you”を“Ben”に置き換えてみると、不思議と双方の曲のメッセージが響き合う。いずれも寂しい曲であることには変わりないけれど。