タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(14):Blickensderfer Electric

筆者:
2017年8月31日
『Typewriter and Phonographic World』1902年1月号

『Typewriter and Phonographic World』1902年1月号

「Blickensderfer Electric」は、ブリッケンスデアファー(George Canfield Blickensderfer)が、1901年に発売した電動タイプライターです。これ以前にブリッケンスデアファーは、「Blickensderfer No.5」「Blickensderfer No.7」といった、タイプ・ホイール式の機械式タイプライターを製造していました。このアイデアをさらに推し進めるにあたって、ブリッケンスデアファーは、電動タイプライターに挑戦したのです。

「Blickensderfer Electric」の最大の特徴は、全ての動作が電動であるという点です。文字キーは全て電気スイッチであり、「叩く」というよりは、「クリックする」という感触です。印字をおこなうタイプ・ホイール(活字を埋め込んだ金属製円筒)も電動で、タイプ・ホイールの表面には、84個(28個×3列)の活字が埋め込まれています。このタイプ・ホイールが、プラテンに向かって倒れ込むように叩きつけられることで、プラテンに置かれた紙の前面に印字がおこなわれるのです。

文字キーの配列は、ブリッケンスデアファー独特のもので、上段のキーがzxkgbvqjと、中段のキーが.pwfulcmy,と、下段のキーがdhiatensorと並んでいます。左端の「CAP」キーを押すと、タイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーはZXKGBVQJに、中段のキーは.PWFULCMY&に、下段のキーはDHIATENSORになります。「FIG」キーを押すと、さらにタイプ・ホイールが持ち上がって、上段のキーは-^_()@#:に、中段のキーは./’”!;?%¢$に、下段のキーは1234567890になります。また、キーボードの右端には「L」とだけ書かれたキーがあって、押すと、キャリッジ・リターンと改行がおこなわれました。もちろん、完全に電動です。「L」キーのすぐ下には「R」キーがあって、これはバックスペースを意味していました。

ただし、1901年当時、コンセントプラグは一般化しておらず、「Blickensderfer Electric」も電灯用ソケットからの給電でした。部屋の照明等の白熱電球を外して、代わりに「Blickensderfer Electric」の電源ケーブルを繋ぐのです。電球を外すと、当然、部屋が暗くなるので、明るい昼間ならまだしも、朝夕や雨の日には手元を照らすオイルランプが必要になる、という本末転倒な事態が起こりました。まだ、商用電源というものが十分に普及していない時代であり、その意味で「Blickensderfer Electric」は、時代の先を行き過ぎていたのでしょう。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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