タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(27):New Yost

筆者:
2018年3月1日
『Century Magazine』1892年10月号

『Century Magazine』1892年10月号

「New Yost」は、ヨスト(George Washington Newton Yost)率いるヨスト・ライティング・マシン社が、1890年頃に発売したタイプライターです。アップストライク式に分類されるタイプライターですが、リバース・グラスホッパー・アクションと呼ばれる独自の印字機構を備えており、インクリボンは無く、インクを活字に塗布する点が特徴的です。

「New Yost」の78個のキーは、基本的にQWERTY配列ですが、大文字小文字にそれぞれ別々のキーが割り当てられていて、シフト機構はありません。標準的なキー配列では、最上段のキーは()%/_#“”と並んでおり、次の段は123456789$と、その次の段はQWERTYUIOPと、その次の段はASDFGHJKL’と、その次の段はZXCVBNM&;:と、その次の段はqwertyuiopと、その次の段は!asdfghjklと、最下段は?zxcvbnm,.と並んでいます。数字の「0」は、大文字の「O」で代用することが想定されていました。

78本の活字棒(typebar)は、中央の円筒の内側に、グルリと円形に配置されています。円筒内側の上端にはインクが塗られており、活字棒の先に埋め込まれた活字が、常にインクを補充する仕掛けになっています。キーを押すと、対応する活字棒が内側へと傾き、活字が円筒を離れます。活字は、いったん下方に下がったあと、中央のアライメント・ターゲットめがけて打ち上がります。活字棒の動きが、バッタの跳び方を上下逆にしたようなものであることから、リバース・グラスホッパー・アクションと呼ばれているのです。アラインメント・ターゲットを中心とするこの機構によって、紙に印字された文字がきれいに一直線に並ぶのです。ただし、印字は、プラテンの下に置かれた紙の下面におこなわれるので、印字した瞬間にはオペレータから見えません。プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。

「New Yost」は、リバース・グラスホッパー・アクションという巧妙な機構により、アラインメントの揃った美しい印字を実現していました。その反面、この機構は故障が多く、頻繁なメンテナンスが必要でした。また、円筒内側のインクも、常に補充が必要だったことから、「New Yost」それ自体の評価は、当時、必ずしも高くはなかったようです。

『North American Review』1897年6月号

『North American Review』1897年6月号

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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