タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(35):Underwood Forum

筆者:
2018年6月28日
『Office Equipment & Methods』1965年3月号

『Office Equipment & Methods』1965年3月号 (写真はクリックで拡大)

「Underwood Forum」は、アンダーウッド社が1961年に発売した電動タイプライターです。この頃、アンダーウッド社は、イタリアのオリベッティ社の傘下に入っており、「Underwood Forum」も、オリベッティ社のピントーリ(Giovanni Pintori)のデザインによるものでした。ただし、「Underwood Forum」の製造はイタリアではなく、アメリカのコネティカット州ハートフォードが生産拠点の中心でした。

「Underwood Forum」は電動タイプライターですが、その印字機構はフロントストライク式で、プラテンの手前に44本の活字棒(type arm)が、扇状に配置されています。キーを押すと、対応する活字棒が電動で跳ね上がってきて、プラテンの前面に印字がおこなわれます。ただし、複数のキーを同時に押しても、活字棒は1本だけしか動かず、ジャミングは避けられるようになっていました。印字やシフト機構だけでなく、キャリッジ・リターンも、改行も、タブ機構も、バックスペースも、全て電動でおこなわれます。キーボードの最上段の上には、タブ機構の設定や解除に関するキーが並んでおり、タブ移動が左右両方向におこなえる、というのが「Underwood Forum」の特長でした。

「Underwood Forum」のキー配列は、「Underwood Golden-Touch Electric」ではなく、「IBM Electric Typewriter Model C」のキー配列をほぼ踏襲していて、44個のキーに86種類の文字が並んでいます。最上段のキーは234567890-=と並んでいて、シフト側が@#$%¢&*()_+です。すなわち、「@」が「2」のシフト側にあって、それ以前のUnderwoodとは異なり、むしろIBMのキー配列となっています。次の段はqwertyuiop½!と並んでいて、シフト側がQWERTYUIOP¼˚です。次の段はasdfghjkl;'と並んでいて、シフト側がASDFGHJKL:"であり、右端には「CARR RET」キーが配置されています。最下段はzxcvbnm,./と並んでいて、シフト側がZXCVBNM,.?です。すなわち、コンマとピリオドが、シフト側にもダブって搭載されているため、44個のキーに86種類の文字となるのです。なお、数字の「1」は小文字の「l」で代用することになっていたようです。

アンダーウッド社は、上の広告の翌年(1966年)にオリベッティ・アンダーウッド社へと社名を変更、生産拠点をペンシルバニア州ハリスバーグへと移します。これと前後して「Underwood Forum」も生産を終了し、アメリカやカナダにおいても、Olivettiブランドを展開していくようになるのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。