古語辞典でみる和歌

第5回 「紫の…」

2014年10月14日

紫の一本(ひともと)ゆゑに武蔵野(むさしの)の草はみながらあはれとぞ見る

出典

古今・雑上・八六七・よみ人しらず

たった一株の美しい紫草があるために、武蔵野に生えている草はすべていとおしく思われるよ。

「みながら」は、全部、残らず、の意の副詞。

参考

「紫」は、紫草のこと。その根から赤紫色の染料を採る。武蔵野は、紫草の産地であった。愛する女性を一本の紫草にたとえ、その人につながりのある人はみな、いとしく、なつかしく思われるというのである。『源氏物語』における「紫のゆかりの物語」の源泉となった有名な歌。

(『三省堂 全訳読解古語辞典』第四版)


◆参考情報

『三省堂 全訳読解古語辞典』で「武蔵野」を引くと、「[歌枕]武蔵国(むさしのくに)の原野。いまの東京都と埼玉県にまたがる。」とあります。また、「むらさき」を引くと、「草の名。紫草。山野に自生し、夏に白色の小花をつける。その根から赤紫色の染料を採る。とくに武蔵野の紫草が有名。」と説明があり、以下のようなコラム「読解のために」が付いています。

[読解のために]最も高貴とされた色――「紫」
貴人専用の色 古代に冠位や服色の制度が定められて以降、紫は、最も高貴な人の衣服などの色とされ、一般の使用は禁じられた。『枕草子』〈めでたきもの〉には、「すべて何も何も、紫なるものは、めでたくこそあれ。花も糸も紙も」とある。
紫系の色の名 また、紫は色の代表とされるところから、「濃き色」「薄色(うすいろ)」はそれぞれ「濃紫(こむらさき)・深紫」「薄紫・浅紫」をさした。紫系には「藤色」「葡萄(えび)色」「紫苑(しをん)色」「蘇芳(すはう)色」がある。

武蔵野は、この歌によって、「紫草」とともに詠まれる歌枕(和歌に詠まれる名所)として有名になりました。

筆者プロフィール

古語辞典編集部

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