今週のことわざ

蛇足(だそく)

2008年6月16日

出典

戦国策(せんごくさく)・斉(せい)

意味

余分なものをつけ加えること。あっても役にたたないもの。

原文

楚有祠者。賜其舎人巵酒。舎人相謂曰、数人飲之不足。一人飲之有余。請画地為蛇、先成者飲酒。一人蛇先成。引酒且之。及左手持巵、右手画蛇曰、吾能為之足。未成、一人之蛇成。奪其巵曰、蛇固無足。子安能為之足。遂飲其酒。為蛇足者、終亡其酒。〔楚(そ)に祠(まつ)る者有り。その舎人(しゃじん)に巵酒(ししゅ)を賜(たま)う。舎人相(あい)(い)いて曰(いわ)く、数人これを飲めば足らず。一人(いちにん)これを飲めば余り有り。謂う、画(えが)きて蛇を為(な)し、先(ま)ず成る者酒を飲まん、と。一人の蛇先ず成る。酒を引きて且(まさ)にこれを飲まんとす。及(すなわ)ち左手(さしゅ)に巵を持ち、右手(ゆうしゅ)に蛇を画きて曰く、吾(われ)(よ)くこれが足を為さん、と未(いま)だ成らざるに、一人の蛇成る。その巵を奪いて曰く、蛇固(もと)より足無し。子(し)(いずく)んぞ能くこれが足を為さん、と。遂(つい)にその酒を飲む。蛇の足を為す者、終(つい)にその酒を亡(うしな)えり。〕

訳文

(楚(そ)の宰相昭陽(しょうよう)は魏(ぎ)を討ってから、斉(せい)を攻撃しようとした。斉の食客陳軫(ちんしん)は昭陽に会い、次のように言った。)「楚の国に先祖の廟(みたまや)を祭っている者がおりました。近侍の者に、大きな杯に入れた酒をふるまいました。近侍たちは相談して、『数人で飲んだら、足りないけれど、一人で飲むには多すぎる。ひとつ地面に蛇の絵をかき、いちばん早くかきあげた者が、この酒を飲むことにしたらどうだろう。』と言いました。するとその中の一人が、まず蛇をかきあげ、酒を手もとに引き寄せて飲もうとしながら、左手に杯を持ち、右手でさらに蛇をかき続け、『おれは足をかくだけの余裕があるぞ。』と言いました。その足がかき終らぬうちに、もう一人の者のかいていた蛇の絵ができあがりました。その人は足をかいている者の杯を奪い取り、『蛇に足なんかあるはずがないのに、おまえはどうして足がかけるんだ。』と言って、その酒を飲んでしまいました。蛇の足をかいていた者は、とうとう酒を飲みそこなってしまったのです。(あなたは、魏を破り、斉を恐れさせ、もう十分名誉をあげられました。斉を破っても、宰相であるあなたは、もう褒賞として与えられる官位はないはずです。この上やりすぎて、もしお亡くなりになれば、人に官位を取られることになります。それでは蛇の足をかいた者と同じではありませんか。」昭陽はもっともだと思い、軍を引き揚げさせた。)

« 冒頭部分のみ表示する

筆者プロフィール

三省堂辞書編集部