中国では、テレビの字幕には、意外と規範的でない字体が出てきた。
「晉」は簡体字においても、「晋」が規範的な字体である。
黒体(ゴシック体)風の書体で、これもなぜか「尚」でなかった。通常は、規範化された書体ばかりが流されているのだが、これは台湾か香港などのフォントなのだろうか。
繁体字だらけの画面に、「」というパーツを使った2点の明朝(中国では宋体)と、その1点の手書き風のゴシック体とが同時に出た。もちろんこれは自然なことであって、無理に統一させる必要はなかろう。
中国も、半世紀以上続いた簡体字政策に、見直しの声が出てきている。識字率が半世紀余りをかけて飛躍的に上昇した今、繁体字に香港や台湾の経済的な繁栄が感じられるとの声を聞くことが増えた。しかし、先日、国務院より、「通用規範漢字表」が公布され、これまでの路線が堅持されることが明らかとなった。関係者から話は聞いていたが、いつ出るのか、頓挫したのかとも思われたものだった。
http://www.gov.cn/zwgk/2013-08/19/content_2469793.htm
テレビでも「漢字英雄」や「中国漢字書き取り大会」といった番組が放送されるようになったというのは、どこかの国の後を追っている、真似なのだろうか。この国でも、パソコンのせいで漢字が書けなくなってきたという、お決まりの話がしばしば聞かれる。筆画を再生するための筋肉運動などを経ないことが増えたのは事実だが、過去との差の有無や現象に関する因果関係の証明は意外と難しい。
CMでは、「マンゴー」と聞こえてパッと見ると「芒果」という字が出ていた。空耳ではなく、もともと英語の名詞に音を近づけて造った音訳語だ。「イッパン」と「イーパン」(一般)が聞こえることは発表でも日常でもある。中国語でも、○ッ○(半濁音)のようになりやすいのだろう。nian4も「ネン」と聞こえることがある。
中国では、コーヒーは「(口+加 口+非)」だが、最近、日本風の「珈琲」も看板で見るようになってきたそうだ。日本で人気の高いこの当て字が、中国では日本らしいコーヒーという情報を伴っているのだろう。香港、台湾でも同様なのかもしれない。
最近、韓国では「コーヒー」(コピ)のことを「加比」「珂琲」と書く店が増えたという話を留学生の一人から聞いた。近年、「カビ」という映画に出てきたためだという。「珂琲」は朝鮮漢字音では「カベ」のはずだが、「非」からの類推読みも一部で行われる。この映画はどこまでが史実なのだろうか。
当時の出来事に関する歴史用語「露館播遷」がより古い中国風(オロシアのようなロシア語の発音に近い)の「俄館播遷」に統一されたのは、俄(にわか)という意味にしたのだとか、「俄館露遷」とも言うことがあるとかいった言説を見ると、何か後付けが行われているように思えて、気になる。
「珂琲」は、日本でも古くは見られたものだが、日中韓で表記が分かれたのは興味深い。韓国では、東洋的な喫茶店(カペ(カフェ) 茶房(タバン)は田舎の妖しいサービス付きの店というニュアンスが強まったそうだ)の看板に店名などで、日本風の「珈琲」もまた見受けられる。韓国人も、これらのハングルよりも大きく書かれるコーヒーの当て字に対しては、本格的で高級なコーヒーを出してくれる、コーヒーの歴史に詳しい喫茶店のようだと情緒を感じるそうだ。