前回は、トップ100語が動詞+機能語で会話の約7割弱を占め大活躍する、という話をしました。今回はもう少し語彙レベルを下げて行くとどうなるか、を見てみましょう。
■■2000語ごとに増えていったら…
トップ2,000語では、話し言葉の約9割、書き言葉データの約8割をカバーしますが、それ以降語数を増加させてもカバー率はあまり増えなくなります。図1を見てください。これは約4億語規模の書き言葉コーパスでの上位ランク語のカバー率です。
トップ2,000語で書き言葉データ全体の83%をカバーするのですが、最初の2,000語に比べると次の2,001~4,000語レベルではたった5%しかカバー率は増えません。同様に、続く4,001~6,000語レベル、6,001~8,000語レベル、8,001~10,000語レベルではそれぞれ3%、2%、1%増加するだけ。それほど、最初の2,000語とそれ以降の単語との重要度は格段に異なります。
トップ2,000語で約8割というのは書き言葉の場合です。話し言葉では、トップ2,000語は約9割をカバーします。話し言葉の方が限られた単語で身の回りのことを表し、単語が少ないからです。これでトップ2,000語は非常に重要だということが理解できるでしょう。
■■英語基本語彙の仕事量
英語基本語彙の構造図を再度見て下さい(図2)。
この円の中心にあった100語に注目してください。100語が小さい割合のように見えますが、とんでもありません。実は一番重要なのはこの100語です。この100語の基礎語彙がものすごく重要な役割を果たしていて、ついで重要なのがトップ2,000語です。この英語基本語彙の「仕事量」をイメージで示したのが図3です。
特に覚えておいていただきたいのは、この100語の中身が動詞と機能語が中心だということです。動詞で文の骨組みを作り、機能語群は文を組み立てるパーツになります。
次の基本2,000語を含めると書き言葉の8割を占めます。面白いのは、2,000語のうちの半分は名詞だということです。つまり、トップ100語に内容語はほとんどなく、文を作っています。ところが、次の2,000語に関しては、半分以上が内容を表す言葉になります。これらが大体、高校2年生ぐらいまでに出ます。その2,000語はとても重要です。次の2,000語、次の2,000語と足しても、役割的にはほんの少ししか増えません(図3の右下のグラフを参照)。これはトップ2,000語がいかに重要かを示していると言えるでしょう。
ちなみに、書き言葉の9割をカバーするには、どれくらいの語数が必要でしょうか。大体6,000語ぐらいです。したがって、書き言葉の8割以上をカバーするためには、かなりたくさんの単語を覚えなければなりません。もちろんこれはネイティブ・スピーカーの読む文章を対象にしています。高校修了レベルまでは語彙を統制しているので、もっと語彙レベルの低いテキストに接することになります。
■■2,000語の中身は?
トップ2,000語の内訳は図4のとおりです。
半分は名詞です。それから主要な内容語になる形容詞や副詞も含まれます。また、機能語もたくさん見られます。表1を見てください。例えば基本副詞は時間・頻度・様態を表すものです。stance wordとは、会話のときに相手との距離をとって、ダイレクトにならないようにしたり、少し表現を緩和したりするような単語です。それから、たくさん出てくるのは、指示語(deictic)です。会話では、名詞を使わずに略すことが多く、this、thatのような指示語がたくさん出てきます。それから談話標識(discourse marker)もたくさんあります。
表1:2000語の単語群の顔
名詞 | person, thing, way, time, etc. |
形容詞 | lovely, nice, different, good, bad, etc. |
法助動詞 | may, must, will, should, etc. |
動詞 | give, leave, stop, help, feel, put, etc. |
軽動詞 | do, make, take, get, etc. |
副詞 時間 | today, tomorrow, yesterday, etc. |
頻度 | always, usually, sometimes, etc. |
様態 | quickly, suddenly, etc. |
stance word | just, whatever, bit, actually, really, etc. |
指示語 | this, that, here, there, now, then, etc. |
談話標識 | you know, I mean, right, well, so, etc. |
■■「幹」と「枝葉」―語彙は立体構造
図5は、高校までの学習語彙3,000語を立体的に捉えています。トップ100語は少ししか面積がないように見えますが、ものすごく仕事をするので、語彙知識としては非常に深くなっています。使い方が複雑で、用法に厚みがある単語と言えます。そして、次の1,000語ぐらいも、そういう意味ではかなり使い出があって、そのあとはだんだん薄くなります。周辺に行くほど使い方は単純です。高校で学習する3,000語レベルの単語について言えば、意味だけを知っていればよい単語群になります。
注意したいのは、3,000語ぐらいでも大学よりも上級のレベルに行くと、発信語彙になりえます。そして、おそらくそのような人は7,000~8,000語ぐらいを受容語彙として持ち、より上位に行くほど語彙力に広がりが見られるでしょう。
■■受容語彙と発信語彙のメリハリ
上位までいくと、語彙はどのくらいの語数になるのでしょうか。図6を見て下さい。
大学では3,000~6,000語のアカデミック語彙というものが必要になります。そして、6,000語以上のレベルは分野別の語彙になります。例えば、理科系・経済・法律など、専門分野で英語を使える力になります。これを「ESP(English for Specific Purposes)語彙」と言います。
中学校・高等学校では、話し言葉の9割、書き言葉の8割をしっかり使えるように、まず基本2,000語を学習しなければなりません。さらに1,000~2,000語ぐらいの単語を上乗せして、大学受験の基礎に備えるというのが現実的です。
大事なのは、ピラミッドの厚くなっている土台部分です。ところが、土台をしっかり作れず、逆三角形になっている生徒がたくさんいます。上の部分を高くしても、土台がしっかり作れていなければ、英語は身に付きません。そういう視点から、私たち英語教員がどんなふうに語彙指導をしているか振り返る必要があるのではないでしょうか。
(つづく)