政治について語るある論客のブログに、「厳密ではなく、フラクタルな……」「曖昧な、フラクタルな……」といった表現がありました。文脈からすると、「フラクタル」を、ふらふらしたもの、とりとめのないものという意味に捉えているようです。
「フラクタル」というのは、自然科学などで導入されている概念で、ふつうは別の意味で用いられます。『三省堂国語辞典 第六版』では、次のように説明しています。
〈どの部分をとっても形が全体と相似(ソウジ)している・性質(図形)。〉
ほかの国語辞典にも同様の説明があります。もっとも、「部分が全体と相似している」というだけでは、イメージが湧きにくいかもしれません。具体的な例が必要です。
フラクタルの例として、いくつかの国語辞典が挙げているのは、「海岸線」や「雲」です。海岸線や雲の輪郭は、遠目に見たときも、近づいて見たときも、ほぼ同じ形をしており、したがって、部分が全体と相似しているというわけです。
でも、この説明はちょっと難解です。「海岸線も雲も、遠目に見たときと、近づいて見たときとでは、明らかに様子が変わるじゃないか」と思う人もいるでしょう。
海岸線や雲は、たしかにフラクタルの例なのですが、これらはいわば上級編です。『三国』では、もっと単純な形で説明することを試みました。すなわち――
〈例、木が枝分かれをし、その枝がまた同じ形に、無限に枝分かれをくり返している形。〉
これならイメージしやすいでしょう。この木の場合、枝の先端を拡大すると、木全体とまったく同じ形になっており、さらにその先端を拡大すると、またしても木全体と寸分違わない形になっている……と、こういうことが、無限に続いています。
もちろん、実際にこんな形はなく、あくまで理論上の産物です。ただ、これに近似した形は、自然界に満ちています。本物の木の枝は、木全体と同形ではありませんが、たしかに似ています。同様に、地図の海岸線は、広い範囲を見ても、狭い範囲を見ても、似たようなくねり方をしています。また、雲を遠くから見ても、近くで見ても、輪郭のふわふわの特徴は似ています。海岸線や雲をフラクタルと言うのはこのためです。
国語辞典は、このように長々と説明するものではありません。少ない字数で分かってもらうためには、『三国』で試みたように、「木の形」などを使うのが適当だと考えます。