計画を予定どおりに、静かに行うことを、政治家などが「せいせいしゅくしゅく」と言うことがあります。最近も、与謝野財務・金融相(当時)がこう発言していました。
〈せいせいしゅくしゅくと、静かに努力をしていくと。それが、今自民党に求められている。〉(NHK「ニュース7」2009.7.21 19:00)
テレビの字幕では「静かに努力をしていく」とだけあって、「せいせいしゅくしゅく」の部分が抜けていました。無理もないことで、じつは、「せいせい」を漢字でどう表記すればいいか、国語辞典や、放送局のハンドブックなどには説明がなかったのです。
「せいせいしゅくしゅく」ということばが大きく取り上げられたのは、1992年10月29日付『朝日新聞』の指摘がおそらく最初だろうと思います。その前日、自民党の有力議員たちの発言にこのことばがあり、各紙の夕刊で「整々粛々」「整斉粛々」「清々粛々」、さらにはひらがなのままなど、さまざまな表記が見られたと報告されています。
以来、注意して聞いていると、「せいせいしゅくしゅく」はたしかに政治家などが使っています。今回、『三省堂国語辞典 第六版』でも、これを新規項目に採用しました。
とはいえ、困るのは漢字表記です。メディアごとに表記が違うのは述べたとおりで、また、典拠となるような古い文献も見当たりません。かといって、「ぜいぜい」「しくしく」などと同じかな書きのことばと見なすのも違和感があります。
表記に関しては、金武伸弥さん(元新聞社校閲記者)の考察が参考になります。意味的に合わない「清々」、辞書にない「静々」などを除けば、「正々粛々」か「整々粛々」が残る、過去には、木下尚江「良人の自白」(1904~06年)に〈鹵簿(ろぼ)正々粛々として〉とある、と言うのです(『あってる!? 間違ってる!? 漢字の疑問』講談社+α文庫)。
これはいわば政治家用語なので、国会会議録でどう表記されているか確かめます。すると、大部分は「整々粛々」で、約40例拾われました。議事録作成者も金武さんと同様に考えたのでしょうか。ともあれ、政治家が活動する現場での表記は重視すべきです。
インターネットでは、むしろ「清々粛々」の表記が多いのですが、ワープロでこの字が出てきやすいせいかもしれず、慎重な扱いが必要です。『三国』では[整整粛粛・正正粛粛]の表記を採用し、現代日本語として確かに実在することばと認めました。