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曲のエピソード
世界的人気を誇るエルトン・ジョンの記念すべき最初のヒット曲で、共作者の友人バーニー・トーピン(Bernie Taupin)と一時、同居していた際に出来上がった曲というのはつとに有名な話。バーニーがエルトンの家に寄宿し、その際、キッチン・テーブルの上で走り書きのように書いた歌詞がこの曲のもとになった。
原題の「Your Song」には、歌詞を綴ったバーニーと、メロディを綴ったエルトンの両者の思いが込められており、“この曲は君のために作ったんだよ”という風に受け止められる。なお、今も使われている1970年代当時からの邦題を「僕の歌は君の歌」といい、今なら単純にカタカナ起こしの「ユア・ソング」になってしまうところだろうが、筆者は当時の邦題にこの曲に込められた思いの丈の深さを感じずにはいられない。拙宅にある日本盤シングルのキャッチ・コピ―もなかなか洒落ていて、曰く“―ロック・エイジの吟遊詩人、エルトン・ジョン―”とある。ついでに言うと、アーティスト名にわざわざ“(歌とピアノ)エルトン・ジョン”とあり、時代を感じさせずにはおかない。ちなみに、当時、同シングル盤の定価は¥400だった。
エルトンは既に自身が同性愛者であることを公言しているが(パートナーの男性もいる)、そうした個人的な恋愛事情に関係なく、彼は“Knight(騎士)”の称号を賜っており、名前の頭には“Mr.”ではなく“Sir”が付く。ご参考までに言うと、イギリスのミュージシャンでエルトン以外に“Sir”が付くのは、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー、元ビートルズのポール・マッカートニー、クリフ・リチャード、トム・ジョーンズら。また、人気映画『007』シリーズでそれぞれ主役を演じたショーン・コネリーとロジャー・ムーアも含まれる。インターネット上でも、エルトンは Mr. Elton John ではなく Sir Elton John と表記されることが多い(本名は Reginald Kenneth Dwight)。ステージ・ネームは、彼がソロ・シンガーに転向する前に籍を置いていたグループ、Bluesology に所属していた Elton Dean と John Baldry のそれぞれのファースト・ネームを拝借してくっつけたもの。
「Your Song」が出来上がった1970年当時、エルトンとバーニーが恋仲だったかどうかは判らない。ただ、バーニーがエルトンの家に寝泊まりしていたのだから、深い友情で結ばれていたことは確かだと思う。そして、歌詞を綴ることに長けていたバーニーの協力があってこそ、この不朽の名曲が生まれたことだけは間違いない。
曲の要旨
言葉では説明できない気持ちが心の中で渦巻いているんだ。僕は思ったことがすぐに表情に出てしまうタチなんでね。僕はお金持ちじゃないけど、もしそうなら、ふたりで一緒に住める大きな家を買うんだけどな。僕は彫刻家でもないし、お祭り広場で怪しげな飲み物を売ってお金儲けするような男でもない。だから、僕にできる精一杯のことは、この曲を君に贈ることだよ。僕の思いをこの曲に綴ったことを君が煩わしいと思ってくれなきゃいんだけどな。この曲は君に捧げたものなんだよ。
1970年の主な出来事
アメリカ: | ヴェトナム戦争への反戦デモに参加していたオハイオ州立ケント大学の学生4名が射殺される。 |
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日本: | 赤軍派による日本航空よど号のハイジャック事件が世間を震撼させる。 |
世界: | ビートルズ解散のニュースが世界中に衝撃を与える。 |
1970年の主なヒット曲
Raindrops Keep Falling On My Head/B.J.トーマス
Love Grows/エディソン・ライトハウス
Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)/スライ&ザ・ファミリー・ストーン
Call Me/アレサ・フランクリン
Let It Be/ビートルズ
Your Songのキーワード&フレーズ
(a) this one’s for you
(b) this is your song
(c) put down in words
私事ながら、中学時代、Gペンを使って洋楽ナンバーの歌詞を書く、という課題が英語の授業で出された。筆者が選んだのは、当時、毎日のように聴いていたエルトン・ジョンの「Love Lies Bleeding」(1973)だった。歌詞の内容はそれほど理解できなかったものの、迷わずその曲を選んだのは、“bleeding”という動詞が何となく気になったから。今から思えば、同曲以上に印象深い「Your Song」を選べば良かったなあ、と思うのだが……。
拙宅には、約200枚ぐらいの洋楽ナンバーのシングル盤(そのほとんどが日本盤/3分の1ぐらいが輸入盤)があるが、知人や友人が酒席を共にするために訪れた際に、ほとんどの人がこの「Your Song」をターンテイブルに乗せて聴いてみたい、とリクエストする。エルトンには数多くの大ヒット曲があるが、やはり最初のヒット曲であるこの曲が、筆者と同年代、或いは年上の方々、もしくはロック・クラシックの1曲としてどこかで耳にして忘れ難い曲になっているのだろうと推測する。
曲のエピソードでも触れたが、これは、エルトンと友人の合作である。筆者がこの曲を聴いていつも思うのは、最も印象的なのが歌い出しの部分であるということ。洋楽ナンバーの構成は、大抵の場合、ヴァース、コーラス、ブリッジによって成り立っているが、この曲について言えば、その区別がつきにくい。ひと言で言えば、聴く度にジワジワと曲の魅力に取りつかれていく、という感じだろうか。とにかく1stヴァースの最初のフレーズが忘れ難いのだ。
(a)は、作詞者のバーニーがエルトンに向かって言っている言葉。「この曲を君に捧げるよ」という意味。ここのフレーズを書き換えると、以下のようになる。
♪I wrote these lyrics just for you.
♪I dedicate the song to you.
もちろん、(a)の“this one”は“this song”と同義である。
(b)は歌っているエルトン自身の言葉にも受け取れるし、歌詞を綴ったバーニーのそれにも受け取れる。「これは君の歌(曲)だよ」、つまり「君が作ったものだよ」ということ。が、先述の通り、これはエルトンとバーニーの共作であるから、ここの歌詞は、互いの心が響き合っているようで、筆者は聴く度にジーンとしてしまう。つまるところ、これはエルトンとバーニーが互いの心をひとつにして作り上げた曲なのだから、ひとつのプレゼントを分かち合った、と考えるのが妥当であろう。と考えると、「僕の歌は君の歌」という邦題が、実に的を射ていることが解る。
(c)の“put down”は、“書き記す”というれっきとしたイディオムで、そこの後に“in words”とあることから、「言葉にして書き記す」という解釈ができる。(c)が含まれるフレーズはとても切なくて、「僕の思いを言葉(=歌詞)に書き記したことを、君が悪く思ってくれなきゃいいんだけど」と続く。そしてそこに続く「君がこの世に存在しているうちは、人生は何て素晴らしいんだろう」というフレーズに、筆者は胸が震えるのだ。相手が異性だろうと同性だろうと、その人がいてくれる限り、この世は素晴らしい、と思える相手に巡り会えた人間は、それだけで幸せだと筆者は思う。そしてこの曲は、そのことを奇をてらわずに聴く側に教えてくれる。
曲が出来上がるまでの過程を詩的に綴った曲は、非常に珍しい。歌詞には抽象的な表現もあちらこちらに登場するが、それもまた、硬い友情で結ばれたエルトンとバーニーのふたりにしか判らない符牒だったのではないだろうか。そこに友情以上の感情が込められているとしても、筆者は今でもこの曲が大好きである。そして聴く度に、“この人がこの世にいてくれるだけで人生は素晴らしい”という思いをかみしめずにはいられない。