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曲のエピソード
10ccはイギリスのマンチェスターで結成された4人組のロック・バンドで(英語圏では“Art-rock band”と呼ばれることもある)、その後、解散→再結成を経て今も活動中。10ccとして活躍し始めたのは1972年からだが、それ以前に別名で既にレコード・デビューを果たしていた。本国イギリスでは10ccとしてデビューした当初からヒット曲が続いたが、アメリカでの初ヒット曲はこの「I’m Not In Love(邦題はカタカナ起こし)」である。
ヴォーカル兼ギター担当のエリック・スチュワート(Eric Stewart)が自分の妻に対して「“愛してる”とくり返し言っても何の意味にもならない」と言ったことがこの曲のアイディアのもとになった、というのはつとに有名なエピソード。また、もうひとつ有名なエピソードとしては、この曲をレコーディング中にスタジオの秘書として働いていた女性のキャシー・レッドファーン(Kathy Redfern)が曲の途中で聞かれる、耳に残る女性の囁きの声を担当したという話がある。レコーディングには、時としてそうした偶然が走行することがあるが、この曲もその例に漏れないと思う。
曲の要旨
俺は恋なんかしちゃいない。そんな風に口にする今の俺がちょっといつもと違うってことを憶えておいてくれよ。俺が君に電話をしたからといって、俺が君の虜になったと勘違いしないでくれ。君に会いたいとは思うけれど、だからといって、君は俺にとってそれほど大切な存在じゃないんだ。とにかく俺は誰にも恋をしてないんだよ。それでも君はずっと俺のことを待っててくれるんだろうね。
1975年の主な出来事
アメリカ: | ウォーターゲート事件の裁判で判決が下る。 |
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日本: | 沖縄県の本土復帰を記念する沖縄国際海洋博覧会が開幕。 |
世界: | イギリス保守党がマーガレット・サッチャーを同党初の女性党首に選出。 |
1975年の主なヒット曲
Have You Never Been Mellow/オリヴィア・ニュートン=ジョン
(Hey Won’t You Play) Another Somebody Done Somebody Wrong Song/B・J・トーマス
Before The Next Teardrop Falls/フレディ・フェンダー
Thank God I’m A Country Boy/ジョン・デンヴァー
Island Girl/エルトン・ジョン
I’m Not In Loveのキーワード&フレーズ
(a) Don’t get me wrong.
(b) ~ mean(s) much to someone
(c) big boys don’t cry
中学時代、クラスメイトの男子がこの曲が収録されているLPを貸してくれた。そして思わせぶりに「グループ名の意味、知ってるか?」と筆者に訊ねたのである。これも有名なエピソードだが、その男子ニヤニヤしながら言うには「メンバー4人の精子の量を合わせると10ccだからさ」とのこと。筆者はギョッとしつつも、それをずっと信じていた。今ではそれが作られたエピソードであることが広く知れ渡っているが、筆者にとっては忘れられない出来事である。
また、当時、借りたLPは日本盤で歌詞カードが掲載されていたのだが、筆者には内容がちんぷんかんぷんだった。一体、この曲の主人公の男性は何を言おうとしているのか。例えば(a)のフレーズ。これは洋楽ナンバーの歌詞にも頻出するし、日常会話でもしょっちゅう用いられる言い回しで「誤解しないで」という意味だが、この男性は相手の女性に電話をかけておきながら、彼女の心を傷つけるようなことを平気で言ってのけるのである。中学生当時、ここのフレーズも不可解でならなかった。“だったら電話しなきゃいいのに”と思ったものである。後年、この曲が誕生するきっかけを知り、何となくこれは“夫婦の倦怠期の曲ではないか”と考えるようになった。中学時代には、「倦怠期」という日本語さえ知らなかったし。当時は洋楽ナンバーに関する情報が少なく、拙い英語力で歌詞カードとにらめっこしながら、何とかその意味を汲み取ろうとするしか他に術がなかった。
(b)も洋楽ナンバーにはそれこそ数え切れないほど登場する言い回しで、「~は~にとって大切だ、かけがえのない存在だ」という意味。(b)を含む箇所もこれまた不可解で、主人公の男性は相手の女性に「会いたい」と言いつつも、相手の女性がそれほど大切な存在じゃないという。だからと言って、このふたりは友人同士ではなく、歌詞から察するに、明らかに恋人同士なのだ。結局は男性の愛情が冷めた、ということなのだろうか……? それにしては、歌詞のそこここに未練も感じられるのだが……。じつを言うと、今に至っても筆者はこの曲の歌詞の真意を掴みかねている。当時、あれだけ大ヒットしたのだから、恐らく大勢の人々が歌詞に共感したのだろうが、そのほとんどが男性だったのではないか、と勝手に推測してみた。みなさんはいかがでしょう?
問題は曲のエピソードで触れた(c)である。仮に10ccがこの曲のレコーディング中に近くに例の秘書の女性が居合わせなかったなら、ここの箇所はどうなっていたのだろう? しかもこの女性の囁きは唐突でさえある。これとやや似た表現で洋楽ナンバーに決まり文句のようによく出てくるのが以下のフレーズ。
♪A man ain’t supposed to cry.(男は泣くもんじゃない)
(c)は女性が大人の男性=big boysに向かって「大人なんだから泣いちゃダメ」と言っているのだが、この曲の主人公に言っているとしたなら、何故に彼は泣いているのだろう? 彼女との関係がうまくいかなくなったから……? それとも、歌詞に関係なく、この“囁き”を挿入することで、リスナーたちの耳を惹きつけようとしたのかも知れない。しかも(c)は何度もくり返されているため、いやが上にも耳に残る。
中学時代、この曲を初めて聴いた時には、タイトルから勝手に“失恋の曲”だと思い込んでしまっていた。クラスメイトの男子から借りたLPに付随する歌詞カードをじっくり読みながら、辞書と首っ引きで自分なりに理解しようと努めても、それほど難しい単語が出てくるわけではないのに、結局は歌詞全体の意味を汲み取れないままに終わってしまったことが今もって口惜しい。今でもふとどこかでこの曲を耳にすると、中学時代の苦い思い出が蘇るのである。しかしながら、耳にはとても心地好い曲調だ。今にして思えば、そのメロディの流麗さと歌詞とのギャップが当時の人々の心を捉えたのかも知れない。やっぱり“倦怠期”がテーマなのかなあ……。