季節のことば

いな ずま 【稲妻】

2007年9月5日

どういう意味?

『大辞林 第三版』では「①〔「稲の夫(つま)」の意。古代、稲は稲妻をうけて結実すると信じられたことから〕雷雲の間、あるいは雷雲と地面との間に起こる放電現象によりひらめく火花。稲光。稲魂(いなたま)。稲交接(いなつるび)。[季語]秋。《 ─ やきのふは東けふは西 / 其角 》 ②動きの素早いたとえ。「 ─ のように名案がひらめく」〔現代仮名遣いでは「いなづま」のように「づ」を用いて書くこともできる〕」とあります。

もう少し詳しく…

『全訳読解古語辞典 第三版』では、語釈のあとに「読解のために」というコラムがあります。そこでは以下のように書かれています。

古来、雷の発生する時期が稲の穂の開花の時期と重なっているところから、いなびかりが稲の結実生長にかかわっていると考えられていた。
たとえば、『蜻蛉日記』中巻にみえる次のような和歌にもそうした考えを基盤にした比喩(ひゆ)が用いられているので、口語訳に特別の配慮が必要である。
[例]「いなづまのひかりだに来ぬ屋がくれは軒ばの苗もものおもふらし」〈蜻蛉・中〉[訳]日の光はもちろんのこといなびかりさえ届かないこの家の軒のかげでは、軒端の苗も思案にくれて伸び悩んでいるようです(ちょうど、夫が通ってこなくなったこの家で物思いに沈んでいる私のように)。なお、「つま」には妻の意と夫の意の両義がある。この歌の場合は、夫の意。
また、この語は、行動の迅速さ、時間的なすばやさの比喩としても用いられる。

ちなみに…

『大辞林』の語釈の末尾には「〔現代仮名遣いでは「いなづま」のように「づ」を用いて書くこともできる〕」と書いてあります。また、『大辞林』のような現代語の辞書をひくときは「いなずま」でひきますが、『全訳読解古語辞典』のような古語専門の辞典をひくときは「いなづま」をひきます。なぜでしょうか。
これは「現代仮名遣い」(昭和61年内閣告示第1号)によって定められています。「次のような語については、現代語の意識では一般的に二語に分解しにくいもの等として、それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるとする」とし、「いなずま」のほかには「きずな〔絆〕」「さかずき〔杯〕」「みみずく」「さしずめ」「おとずれる〔訪れる〕」「つまずく」…などが例に挙げられています。
なお「ぢ」「づ」を用いるのは「ちぢむ〔縮む〕」「つづく〔続く〕」(同音の連呼により生じたもの)、「はなぢ〔鼻血〕」「こづつみ〔小包み〕」「つねづね〔常々〕」(二語の連語により生じたもの)としています。

筆者プロフィール

三省堂編修所

編集部から

「時候のあいさつ」の番外編、「季節のことば」では古くから伝えられてきた表現を解説します。