1905年2月23日、マレーは、ロンドンのグレート・ジョージ通り1番地にある英国土木学会本部にいました。ここで開催された英国電気学会(The Institution of Electrical Engineers)で、新しい遠隔タイプライターを発表し、論文誌に掲載するためです。
論文の発表自体は2月23日におこなわれたのですが、論文に対する質疑応答は1週間後の3月2日におこなわれました。この質疑応答におけるマレーの説明を、少し見てみましょう。
議論の焦点の一つは、送信側の鑽孔タイプライターをどの程度のスピードで叩けるのか、という点にあると思われます。印刷電信機としての実用面を考えた場合、それは非常に重要な点です。もし、鑽孔タイプライターを叩くスピードが、モールス電鍵や、あるいはその他の送信機に比べて劣っているなら、私の電信機は無用の長物です。しかし実際のところ、鑽孔タイプライターを叩くスピードは、モールス電鍵に優っています。タイプライターのキーボードを叩くスピードというのは、非常に速いものなのです。ただし、20ワード程度の短い電文を何通も打って、それにいちいちサインしたり、あるいはそのような短い電文を打ちながら、他のこまごまとした作業が間に挟まってしまう場合は、ロスタイムはかなり大きくなってしまいます。
ウェブ氏(Herbert Laws Webb)は、バッキンガム鑽孔機(モールス送信用の鑽孔タイプライター)に関して、言及されました。バッキンガム鑽孔機のスピードに関しては、私も何度か調べましたが、非常に良いものだと言えます。私がニューヨークで会った男性オペレータは、7時間半で770通、つまり毎時104通の電文を鑽孔したとのことです。ただし、最高のオペレータの最高速度を採用するわけにはいきません。平均的なオペレータの平均速度を参照すべきです。実用的な面を考えた場合は、必ずそうあるべきです。非常に長い期間、実際には152日もの間、毎日314通程度の電文をバッキンガム鑽孔機で開け続けた男性オペレータの例に、ウェブ氏は触れました。非常に良い成績です。私が思っていたより、かなり良い。アメリカにおける電信士の勤務時間は1日9時間、うち1時間は休憩時間です。したがって、314通を8時間で割ると、毎時40通になります。毎時40通というのは、アメリカのモールス電信士に比べてやや高速ですが、非常に高速というわけではない。ロンドンのモールス電信士は、毎時30通程度で、しかも1通1通の電文の長さはやや短い。毎時40通というのは、仮に1通あたり平均30ワードだとしても、60分で割ると、毎分わずか20ワードに過ぎません。
マレーの論文には、マレー送信機の鑽孔タイプライターにおいて、毎分72ワードのスピードに達したオペレータの例が、紹介されていました。もちろん、全オペレータがそのスピードに達するわけではなかったのですが、それでも他の送信機よりマレーの鑽孔タイプライターは優っている、ということをマレーは強調し続けたのです。
(ドナルド・マレー(7)に続く)