地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第287回 井上史雄さん:中国語の新しい方言 “QQ” —ドライフルーツとヨーグルト—
New dialect “QQ” in Chinese— Dry fruits and Yogurt—

筆者:
2014年1月11日

このシリーズでは、地域語(方言)が社会の中でどう活用されているかに着目しています。今回は中国語をみます。中国語は中国以外に周辺各国でも使われています。当然国(地域)による違いがあります。中国語の新しい言い方についても、香港発だったり、台湾産だったり、マカオ生まれだったりします。新しいことばや方言に漢字がないときは、アルファベットで記すことがあります。台湾の「A菜」についてはすでにふれました(第152回=「魅せる方言」186ページ)。

(クリックで全体を拡大表示)

【図1】「QQQ花枝焼」
【図1】「QQQ花枝焼」
【図2】「QQQ的花枝焼」
【図2】「QQQ的花枝焼」

台湾には、「QQ」で書き表す擬声擬態語があると、台湾人の先生に聞きました。固くてすべりがよいものに使うそうです。1998年に夜店の看板で見つけました。2011年に台北の北の淡水の店の看板でも見つけました【図1、図2】。「QQQ花枝焼」「QQQ的花枝焼」と書いてあります。「花枝」(hoe-ki、ホェギー)は台湾語(ミンナン語、ホーロー語)で、いか・たこを言います。これがQQの味なんでしょう。

ちなみに、Lさんが台湾QQの画像情報を探し出してくれました。
//www.taipeinavi.com/special/5043721

中国からの留学生は、QQは「台湾映画の字幕で見たが、意味が分からなかった」と言っていました。中国には広がっていないようです(QQを名乗るインターネットの会社が21世紀にできたようですが)。

【図3】「QQ」さんざし
【図3】「QQ」さんざし

2013年に「QQ」をシンガポールの店で見つけました。さんざしのドライフルーツです【図3】。これは何通りにも楽しめました。まずことば。シンガポール製ですが、シンガポールの公用語の「英語・中国語・マレー語・タミル語」でなく、「中国語・英語・日本語」です。その日本語が、「QQ好み」「新しい楽しみなさい」となっているのも、楽しめました。

次に味も、楽しみました。ドライフルーツは、ヨーグルトに一晩漬けると、みずみずしい味に戻ります。さんざしを、ヨーグルト、飲むヨーグルト、水に漬けて、そのままの「QQ」味と比べて、楽しみました。ついでにドライフルーツミックス、ドライ野菜ミックス、干し柿、干し芋も、漬けて比べました。ヨーグルトでは水分が少なくて、固いまま残ることがありますが、飲むヨーグルトでは、全体が柔らかくなります。水だとふやけて味が溶け出してしまいます。柔らかめが好きな人は、飲むヨーグルトに入れるのがよさそうです。小学校の夏休みの宿題なみの実験ですが……。ちなみに、「切干大根=千切大根」(第207回)と小魚チップスも試しました。結果が気になるかたは、ご自分でどうぞ。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 井上 史雄(いのうえ・ふみお)

国立国語研究所客員教授。博士(文学)。専門は、社会言語学・方言学。研究テーマは、現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値など。
履歴・業績 //www.tufs.ac.jp/ts/personal/inouef/
英語論文 //dictionary.sanseido-publ.co.jp/affil/person/inoue_fumio/ 
「新方言」の唱導とその一連の研究に対して、第13回金田一京助博士記念賞を受賞。著書に『日本語ウォッチング』(岩波新書)『変わる方言 動く標準語』(ちくま新書)、『日本語の値段』(大修館)、『言語楽さんぽ』『計量的方言区画』『社会方言学論考―新方言の基盤』『経済言語学論考 言語・方言・敬語の値打ち』(以上、明治書院)、『辞典〈新しい日本語〉』(共著、東洋書林)などがある。

『日本語ウォッチング』『経済言語学論考  言語・方言・敬語の値打ち』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。