地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第235回 大橋敦夫さん:「だんだんどうも」は、こんにちは(新潟県十日町市・南魚沼市ほか)

筆者:
2013年1月5日

■十日町市で

新潟県十日町市観光協会のポスターには、ご当地のあいさつ言葉「だんだんどうも」[=こんにちは]が掲げられています。

(画像はクリックで全体表示)

写真1 観光ポスター
【写真1】観光ポスター

観光PRに使われる方言は、ともすると現地では、もう廃れてしまっている場合もあるのですが、旧市街地を中心に、中年以上の方々にとっては、日常語だそうです。

それを裏付けるかのように、十日町市の広報誌の愛称にも「だんだん」が使われていました(平成17年7月10日発行分~21年 ⇒十日町市サイト内広報誌一覧ページへ)。

■語源について

ここで、「だんだん」の語源をたずねると、「道が段々になっている」の「段々」の意に行きあたり、それが、「少しずつ、かさねがさね」の意味となり、「だんだんありがとう」のように、感謝のあいさつとして使われるようになりました。江戸時代(18世紀末)に、京都の遊里で「だんだん」と省略され、西日本各地で使われてきました。(【参照】井上史雄『ご存知ですか?この方言』2012.6私家版)

この語が、十日町を中心にあいさつ言葉として使われているのは、北前船を通じて、上方文化との交渉を持っていた地域の歴史を感じさせます。

■南魚沼市で

おとなりの南魚沼でも、親しまれている表現であり、店名にあしらった例もあります。

写真2 だんだん亭
写真3 だんだん亭
写真4 だんだん亭
【写真2・3・4】だんだん亭
 

店名に加え、看板やメッセージボード等でも方言を活用し、道行く人の目を引いています。

 「食べなれ」[=お召し上がりください]
  「はらくちい」[=お腹がいっぱい]

また、湯沢では、オーソドックスな方言グッズ「方言てぬぐい」が売られており、これにも、「だんだんどおも」が選ばれています。

写真5 だんだんどおも
【写真5】だんだんどおも

さらに、期間限定(2012.4.29~12.31)ですが、JR只見線に、魚沼市観光協会がプッシュする観光車掌「だんだんど~も」が同乗しています。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 大橋 敦夫(おおはし・あつお)

上田女子短期大学総合文化学科教授。上智大学国文学科、同大学院国文学博士課程単位取得退学。
専攻は国語史。近代日本語の歴史に興味を持ち、「外から見た日本語」の特質をテーマに、日本語教育に取り組む。共著に『新版文章構成法』(東海大学出版会)、監修したものに『3日でわかる古典文学』(ダイヤモンド社)、『今さら聞けない! 正しい日本語の使い方【総まとめ編】』(永岡書店)がある。

大橋敦夫先生監修の本

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。