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第58回【定額減税】ていがくげんぜい

筆者:
2024年6月24日

[意味]

所得税や住民税などから一定額を差し引いて実施する減税。納税額の多い高額所得者ほど減税額が大きくなる定率減税とは異なり、金額が一律であるため低所得者向けの対策という側面がある。

[関連]

定率減税

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定額減税が実施されます。会社員や公務員などの給与所得者であれば、6月に支給される給与・賞与から源泉徴収される所得税と住民税が減り、ふだんよりも手取り額が増える人もいることでしょう。減税額は所得税3万円、住民税1万円で1人当たり4万円。子供などの扶養家族も対象になります。

今回の減税は、岸田文雄首相が2023年9月25日に発した「経済成長の成果である税収増などを国民に適切に還元すべきだ」との訴えに始まりました。10月20日には所得税の減税を表明し、これが衆参2補欠選挙の投開票日の2日前だったことから「選挙目当てだ」との批判が相次ぎました。しかしながら補選は1勝1敗の結果に。2024年衆院補欠選挙も候補者を出さない不戦敗を含め3戦全敗となりました。首長選での敗北も続き、内閣支持率も低迷したままで、噂された衆院解散・総選挙も先送りになったもようです。

記事データベース「日経テレコン」で日本経済新聞での「定額減税」の出現記事数を見ると、10年間でわずか1件しかなかったものが、2023年10月以降に78件と急増。2024年は1~5月で53件にもなり、年間では100件を超えそうな勢いとなっています。ちなみにグラフで山になっている1998年は橋本龍太郎内閣が定額減税を実施、2008年は福田康夫政権が定額減税を総合経済対策に盛り込んだ年でしたが、両内閣とも年内に退陣しています。福田内閣の後継・麻生太郎政権は1人当たり1万2000円の「定額給付金」を翌年3月に実施しましたが、半年後には政権交代となり民主党政権が誕生。減税策が必ずしも政権浮揚につながるとは限りません。

給与支払明細書に所得減税額を明記することに、事務負担が増す企業や自治体から懸念の声が上がりました。いわゆる減税額の「見える化」で国民に減税を実感してもらうのが目的のようではありますが、政権の人気取りの狙いも見えてきます。もっと透明化すべきことは、政策活動費などほかにあるはずなのですが。

 

2024年は5月まで

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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