(第3回からつづく)
今月24日に『新しい常用漢字と人名用漢字』が発売されます。出版記念と言っては何ですが、第1章「常用漢字と人名用漢字の歴史」の内容を要約したり、あるいはちょっと脱線してみたりしながら、人名用漢字の源流を全6回で追ってみたいと思います。
衆議院の戸籍法第50条改正案
昭和26年2月6日、衆議院予算委員会において、子供の名づけに対する漢字制限の問題を、川端佳夫議員が天野貞祐文部大臣に問いただしました。子供の名づけに使える漢字が、当用漢字1850字だけでは不十分なので、これを緩和する考えはないか、と詰め寄ったのです。この質問に対し天野大臣は、「名前についてはいかにもおっしゃる通りで、私もあれではどうかという考えを持っておりますので、これもよく研究してもらって何とか緩和しなければいけないという考えを実は持っております。」と答えてしまいました。
翌2月7日、眞鍋勝を中心とする13人の議員は、戸籍法の一部を改正する法律案を起草すべく、立法理由書を国会に提出しました。
常用平易な文字の問題は今や改正に着手すべき時期に達したと思う。子供の名につける常用平易な文字の範囲を国語審議会の定めた当用漢字の範囲と同じと断定したことは軽卒である。両者の範囲を同一と誤認し、当用漢字を国民に強制することによって、国民は多大の迷惑を受けている。たとえば無名、無籍の日本人が出現したり、戸籍事務担当者が54字を増加することを協議したり、同名異人が各地に現われたりしている。文部大臣が名につける漢字の緩和を答弁しているのは時宜に適している。
この立法理由書を受けて2月22日、衆議院法務委員会のもとで、戸籍法改正に関する小委員会が発足しました。これにあわてたのは国語審議会です。3月2日の部会長会議で衆議院法務委員会の動きを知った土岐善麿国語審議会会長は、副会長の宮沢俊義とともに、法務委員会に対して、拙速な審議をおこなわないよう申し入れをおこないました。しかし法務委員会は、この申し入れを無視し、戸籍法第50条を改正する法案を3月27日に仮決定しました。これに対し、3月29日に衆議院文部委員会が連合審査を申し入れましたが、法務委員会はこれを拒否、法案を3月30日の本会議にかけることを決定します。
第五十条 子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。 常用平易な文字の範囲は、命令でこれを定める。 市町村長は、出生の届出において子の名に前項の範囲外の文字を用いてある場合には、届出人に対してその旨を注意することができる。但し、届出人がこれに従わなくともその届出を受理しなければならない。
この法案は、子供の名づけに対する漢字制限を、事実上、骨抜きにするものでした。昭和26年3月30日の衆議院本会議では、この戸籍法第50条改正案は全会一致で可決、参議院に送付されたのです。
(第5回「人名用漢字別表の内閣告示」につづく)