人名用漢字の新字旧字

第29回「真」と「眞」

筆者:
2009年2月12日

旧字の「眞」は人名用漢字なので、子供の名づけに使うことができます。新字の「真」は常用漢字なので、やはり子供の名づけに使うことができます。つまり、「真」も「眞」も出生届に書いてOK。でも、旧字の「眞」には、かなりヤヤコシイ歴史があるのです。

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昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表には、旧字の「眞」が収録されていました。昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表では、標準漢字表とほぼ同じ字体の「眞」が官報に掲載されました。そして、昭和23年1月1日に施行された戸籍法施行規則は、子供の名づけに使える漢字を当用漢字表1850字に制限しました。したがってこの時点では、旧字の「眞」は出生届に書いてOKだったのですが、新字の「真」はダメでした。昭和24年4月28日、当用漢字字体表が内閣告示され、新字の「真」が当用漢字になりました。これを受けて法務府民事局は、当用漢字表に加えて当用漢字字体表も子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。この結果、旧字の「眞」も新字の「真」も、どちらも出生届に書いてOKとなったのです。しかし、話はこれで終わりませんでした。

昭和52年1月21日、国語審議会は文部大臣に、新漢字表試案を報告しました。新漢字表試案1900字には、新字の「真」が収録されていて、旧字の「眞」(当用漢字表とほぼ同じ字体)がカッコ書きで添えられていました。つまり、「真(眞)」となっていたわけです。ところが、昭和54年3月30日に国語審議会が報告した常用漢字表案(中間答申)では、やはり「真(眞)」となっていたものの、旧字の「眞」の字体が変更されていました。「目」の下の部分がくっついた字体になっていたのです。昭和56年3月23日、国語審議会が文部大臣に答申した常用漢字表でも、やはり「真(眞)」となっていたものの、旧字の「眞」は「目」の下の部分がくっついた字体になっていました。

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これに対し民事行政審議会は、昭和56年4月22日の総会で、常用漢字1945字を子供の名づけに認めると同時に、常用漢字表のカッコ書きの旧字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字だけを、子供の名づけに認めることにしました。旧字の「眞」は、常用漢字表と当用漢字表で字体が違っていましたが、民事行政審議会はこれらを同一だとみなし、「目」の下の部分がくっついた「眞」を子供の名づけに認めるべく、5月14日の答申に盛り込んだのです。「隆」の場合と違う判断ですね。昭和56年10月1日、常用漢字表が内閣告示されると同時に、戸籍法施行規則も改正され、旧字の「眞」は人名用漢字になりました。でもそれは、「目」の下の部分がくっついた「眞」だったのです。

ところがその23年後、平成16年9月27日に改正された戸籍法施行規則で、旧字の「眞」の字体が変更されました。「目」の下の部分があいた当用漢字表の字体に戻されたのです。逆に言えば、「目」の下の部分がくっついた「眞」は、昭和56年10月1日から平成16年9月26日の間だけ、子供の名づけに使えたということになります。現在では、新字の「真」も旧字の「眞」も出生届に書いてOKですが、どちらも「目」の下の部分があいた字体なのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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