※編集部注:公開当初、旧字の「禱」は環境によっては「ネへんに壽」の字体で示されるかたちで表示してありましたので、フォントを指定するように変更しました。以下の本文中で意図した旧字の「禱」は「示へんに壽」で、下の画像で示す文字です。(2009年5月19日)
旧字の「禱」(示へんに壽)は、平成16年9月27日の戸籍法施行規則改正で、人名用漢字になりました。新字の「祷」(ネへんに寿)は、つい1週間前、平成21年4月30日の戸籍法施行規則改正で、人名用漢字になりました。つまり現在では、「祷」も「禱」も出生届に書いてOK。でも、新字の「祷」が人名用漢字になるためには、高等裁判所による決定が必要だったのです。
法制審議会のもと平成16年3月26日に発足した人名用漢字部会は、JIS X 0213 (平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。旧字の「禱」は、JIS X 0213の第3水準漢字で、出現頻度数調査の結果が647回でしたから、人名用漢字の追加候補となりました。一方、新字の「祷」は、JIS X 0213の第1水準漢字でしたが、出現頻度数調査の結果が95回で、不受理の法務局数が2だったため、追加候補にはなりませんでした。
平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を、法務大臣に答申しました。この488字の中に、旧字の「禱」は含まれていましたが、新字の「祷」は含まれていませんでした。 3週間後の9月27日、戸籍法施行規則は改正され、これら追加候補488字は全て人名用漢字になりました。旧字の「禱」は人名用漢字983字に含まれていましたが、新字の「祷」は人名用漢字になれませんでした。でも、子供の名づけに新字の「祷」を使いたい親は、これに黙っていなかったのです。
平成19年2月23日、神戸家庭裁判所伊丹支部は、新字の「祷」を含む出生届を受理するよう、宝塚市長に命令しました。子供の名づけに新字の「祷」を使いたい親が、宝塚市長を相手どって不服を申立てていたもので、神戸家庭裁判所伊丹支部は、この親の訴えを認めたのです。ところが、この命令に対し宝塚市側は、大阪高等裁判所に即時抗告しました。正字の「禱」が人名用漢字として使えるのだから、あえて俗字の「祷」を子供の名づけに認める理由がない、というのが、宝塚市側の主張でした。新字の「祷」をめぐる争いは、高等裁判所の抗告審に移り、「祷」が戸籍法でいうところの「常用平易」な漢字かどうかが争われたのです。
平成20年3月18日、大阪高等裁判所は、宝塚市側の抗告を棄却しました。「祷」は「禱」に較べて「平易」なのは疑いがなく、しかも、「祷」は第1水準漢字なので「常用」されているはずだ、と、大阪高等裁判所は判断したのです。つまり、「祷」は、戸籍法でいうところの「常用平易」な漢字であり、したがって子供の名づけに使ってよい、と決定したのです。大阪高等裁判所の決定を受けて、宝塚市は、子供の名に「祷」を含む出生届を受理しました。
平成21年4月30日、法務省は戸籍法施行規則を改正し、「祷」と「穹」の2字を人名用漢字に追加しました。この結果、人名用漢字は985字になり、旧字の「禱」に加えて新字の「祷」も、出生届に書いてOKとなったのです。