新字の「栖」は人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「棲」も人名用漢字なので、子供の名づけに使えます。つまり、「栖」も「棲」も出生届に書いてOK。実は「栖」と「棲」の新旧については議論があるのですが、ここではあえて「棲」を旧字、「栖」を新字と呼ぶことにしましょう。
昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表には、新字の「栖」も、旧字の「棲」も、含まれていませんでした。昭和23年1月1日に戸籍法が改正され、子供の名づけに使える漢字が当用漢字表1850字に制限された結果、「栖」も「棲」も子供の名づけに使えなくなりました。
昭和53年1月1日に制定された漢字コード規格JIS C 6226では、旧字の「棲」が第1水準漢字に収録されていました。上村一夫の『同棲時代』や、南こうせつとかぐや姫の『神田川』に代表されるように、昭和40年代の終わりには「同棲」という言葉は、使用頻度の高い単語となっていました。それがJIS C 6226の制定作業にも影響を及ぼし、「棲」が第1水準に入れられたのです。また、新字の「栖」も第1水準漢字に収録されていました。JIS C 6226は、都道府県名と当時の市町村名を全て第1水準漢字に含めることを目指していたので、佐賀県鳥栖市や茨城県神栖町の「栖」は第1水準に入れられたのです。
しかし、昭和56年10月1日に内閣告示された常用漢字表には、新字の「栖」も、旧字の「棲」も、含まれていませんでした。国語審議会は「栖」も「棲」も、日本で常用される漢字だとはみなさなかったのです。その結果「栖」も「棲」も、子供の名づけに使えるようにはなりませんでした。
平成12年12月8日、国語審議会は表外漢字字体表を答申しました。表外漢字字体表は、常用漢字(および当時の人名用漢字)以外のよく使われる漢字に対して、印刷に用いる字体のよりどころを示したもので、1022字の印刷標準字体が収録されていました。この中に、「栖」と「棲」が両方とも含まれていました。「栖」と「棲」は異体字の関係にあるが、既に別字意識が生じているので、これらを両方とも印刷に用いてよい、と国語審議会は判断したのです。
法制審議会のもと平成16年3月26日に発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(平成12年3月)、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。新字の「栖」は、全国50法務局のうち出生届を拒否された管区は無かったものの、漢字出現頻度数調査の結果が361回で、JIS X 0213の第1水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補となりました。一方、旧字の「棲」は、やはり出生届を拒否された管区は無かったものの、出現頻度が1030回で、JIS X 0213の第1水準漢字だったので、人名用漢字の追加候補となりました。
平成16年6月11日、人名用漢字部会は、578字の追加案を公開しました。この578字の中に、新字の「栖」と旧字の「棲」が両方含まれていました。「莱」と「萊」のケースと違って、人名用漢字部会は、「栖」と「棲」をまとめるようなことはしませんでした。平成16年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申し、9月27日の戸籍法施行規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、新字の「栖」と旧字の「棲」は、両方とも人名用漢字になりました。それが現在も続いていて、「栖」も「棲」も出生届に書いてOKなのです。