(第5回からつづく)
次に、合憲派(法廷意見)は、人名用漢字以外の漢字に対する「救済措置」について触れています。
出生申告書に出生者の名が「人名用漢字」以外の漢字で記載され、家族関係登録簿に出生者の名をハングルのみで登載した場合は、当該市(区)・邑・面の長が、出生者の名として申告された「人名用漢字」以外の漢字の字体と発音を記載して翌月10日までに監督裁判所に報告することとし、監督裁判所はその内容を四半期ごとに整理して翌月20日までに法院行政処に報告することとするなど、家族関係登録規則の改正を通じて持続的に「人名用漢字」を追加できる方案も用意している(人名用漢字の制限に関連した家族関係登録事務処理指針(家族関係登録例規第111号)第4条参照)。
そして、出生申告時点で「人名用漢字」に含まれておらず使用できなかった漢字であっても、上のような家族関係登録規則の改正で追加された「人名用漢字」に含まれる場合には、改名許可手続によって希望する名を使用可能となる。特に、出生申告時に「人名用漢字」以外の漢字を申告した結果、家族関係登録簿の氏名欄に出生者の名がハングルのみで登載された場合には、改名許可手続を経る必要はなく出生申告人の追後補完申告だけで、それまでハングルのみで登載されていた名をハングルと漢字で登載できるような方案も用意されている(人名用漢字の追加にともなう家族関係登録事務処理指針(家族関係登録例規第322号)第1項参照)。
これに対し、違憲派(反対意見)は、人名用漢字が将来において本当に増えるかどうかわからないし、増やすくらいなら最初から使えるようにしておけばいい、と指摘しています。
法廷意見が説示するように、家族関係登録規則改正を通じて「人名用漢字」が追加される場合、当事者は改名許可手続または出生申告人の追後補完申告を経て、希望する名を使用できることになる。しかし、審判対象条項が漠然と将来に改正される可能性があるという点をもって、現在の基本権制限が緩和されたと見るべきではない。初めから希望する漢字を使用可能ならば、人名用漢字の追加にともなう改名許可手続や追後補完申告などの不必要な手続をおこなう必要もない。
一方、合憲派は、実際に過去ずっと増えてきたのだ、と主張します。
実際、審判対象条項が初めて導入された時点では、我が国の人名に使われる漢字調査結果などに基づき「漢文教育用基礎漢字」を含んだ合計2,731字が「人名用漢字」に指定されたが、その後9回にわたる大法院規則改正で「人名用漢字」の範囲を拡大してきた結果、現在は合計8,142字に至っているという点は、先にも述べたとおりである。
これは、人の名に使える漢字の範囲を一定の手順に基づいて継続的に拡大し続けることにより、名に漢字を使う際に不便が起こらないよう補完装置を作動し続けているのだとみなせる。
この「継続的に拡大」が逆鱗に触れたのか、違憲派は猛然と反論します。
かえって「人名用漢字」の範囲が9回の大法院規則改正を通じて拡大してきたという事情は、憲法第10条の幸福追求権によって保護される「両親が子の名を付ける自由」を一律的に制限するという手段を採択した審判対象条項が有する問題点を、自ら認めているに過ぎない。
さらに、人名用漢字で言うところの「通常使われる漢字」を誰が決めているのか、どの程度の使用頻度があればその範囲に入り得るのか、疑問である。人名用漢字が初めて導入された当時(1990年12月30日)は2,731字だったものが、9回の改正の結果、現在(2014年10月20日)は8,142字になったところ、我々の経験上、この20余年間に漢字の使用頻度が減少こそすれ増加したはずはないことに照らしてみても、人名用漢字あるいは通常使われる漢字の範囲というものが、どれほど作為的なものであるか見て取ることができる。人名用漢字は「プロクルステスの寝台」の変形である。
寝台とは違って、人名用漢字がどんどん伸びているという点で、ギリシア神話のプロクルステスにたとえるのは無理があるように思えるのですが、まあ、寝台のサイズに合わせて身体の方を切る、という話をしたかったのでしょう。
(最終回につづく)