『ウェブスター英語辞典』(1913年版)で、SCIENCEの項目を読んでいるところでした。そこに記載されているSCIENCEの同義語(シノニム)に、literature、art、knowledgeの三つの語が並んでおり、中でもartについては、念入りの説明が施されています。
前回見たように、「アート」に関する解説は、辞書の執筆者によるものではなく、カールスレイクからの引用であることが示されていました。
調べてみると、ウィリアム・ヘンリー・カールスレイク(William Henry Karslake)『論理学研究への手引き(Aids to the Study of Logic)』(2vols, 1851)の第1巻からの引用であることが分かります。残念ながら、今回同書そのものは確認できませんでしたが、出典については別の文献で確認できました。
実は『ウェブスター英語辞典』で引用されているのとまったく同じ文章が、他の書物にもそのまま引用されているのです。ここで注目しておきたいのは、ウィリアム・フレミング(William Fleming)『哲学語彙 精神・道徳・形而上学に関する――引用と参照つき 学生用(The Vocabulary of Philosophy, menetal, moral, and metaphysical: with quatations and references; For the use of students)』(1857)です。
これは、グラスゴー大学のウィリアム・フレミングが、学生の学習のために編んだ哲学事典で、副題に見えるように、語彙の解説に加えて先哲が書いた文章からの引用が添えられています。
この『哲学語彙』のSCIENCEの項目を見ると、さまざまな引用を交えながら、その意味と用例が提示される中に、例の”In science, scimus ut sciamus; in art, scimus ut producamus.“で始まる文章(第37回参照)が引用文として現れます。そして、その引用文の末尾に次のように出典が示されているのです。
――Karslake, Aids to Logic, b. i., p. 24.――V. ART, DEMONSTRATION.
(The Vocabulary of Philosophy, p.453)
書名は若干省略されていますが、上記した『論理学研究への手引き(Aids to the Study of Logic)』を指しています。このようにきちんと出典が明示されているおかげで、西先生が『ウェブスター英語辞典』から引用している文章の出所が分かりました。この『哲学語彙』はなかなかよくできていて、カールスレイクの引用には次のような注もついています。訳出してお示ししましょう。
この「サイエンス」と「アート」の区別は、アリストテレスが提示したものである。『分析論後書』i., 191, ii., 13.を見よ。
またしてもアリストテレスの名前に出合いました(第30回参照)。無理からぬことです。ヨーロッパの学術史を眺めてみると、学術を分類するさまざまな試みがなされてきましたが、その最初期の試みの一つがアリストテレスによるものだからです。アリストテレス先生の影響は、時代によって強くなったり弱くなったりしていますが、このように19世紀半ばの学術書にもその力は及んでいるのです。
では、アリストテレスは「サイエンス」と「アート」をどのように区別しているのでしょうか。西先生の「百學連環」からさらに遡ることになりますが、ここをしっかり押さえることで、以後の読解にとっても、大きな手助けを得られると思います。次回は、アリストテレスの議論を見てみることにしましょう。