『ウェブスター英語辞典』1913年版のSCIENCEの項目に掲載されている同義語の欄を見ていたところでした。その同義語には、Literature、Art、Knowledgeの三つが並んでいます。
「リテラチャー」と言えば、ついつい「文学」と訳したくなる言葉ですね(このこと自体いろいろな問題を含むわけですが)。こともあろうに「サイエンス」が「リテラチャー」と同義なの? というわけです。ここは、「百学連環」を読む私たちにとっても興味深い箇所なので、少し足をとめて見ておくことにしましょう。原文はリンク先を見ていただくとして、訳文を掲げてみます。
同義語――リテラチャー、アート、ナレッジ。「サイエンス」とは文字通りには「知識(knowledge)」のこと。だが、よく使われる意味では、体系立っていて秩序ある知識の配置を指す。さらに詳しい意味としては、「サイエンス」には、知識の諸分野が含まれており、そうした知識は、根本的な原理、もしくは自然の秩序に従って配置された原理や法則によって説明される事実などを対象としている。
(『ウェブスター英語辞典』、1913年版、SCIENCEの同義語)
原文ではここで切れずそのまま続きますが、一旦ここで区切ります。まずは「サイエンス」の同義語の一つとして掲げられた「ナレッジ(知識)」との関係が説かれていますね。ここで「おや?」と思うのは、同義語としては「リテラチャー」「アート」「ナレッジ」という順序で並べられているにもかかわらず、説明は「ナレッジ」から始まり、次に見るように「リテラチャー」が続き、最後に「アート」が登場することです。なぜかは分かりませんが、頭の片隅に疑問を置いておきましょう。
それはともかく「サイエンス」を「学」もしくは「学問」と捉えれば、「知識」と同義であるという説明は納得しやすいと思います。では、次に「リテラチャー」の説明です。
「リテラチャー」という言葉は、「サイエンス」の名の下に包括されないあらゆる構成物を意味することもあるが、多くは「文学(belles-lettres)」に限定される。〔Literatureの項目を見よ〕。
(『ウェブスター英語辞典』、1913年版、SCIENCEの同義語)
ここで注意すべきことは、そもそもliteratureという言葉は、いわゆる「文学」に限定されない幅広い意味を持っていたということです。ラテン語のlitteraturaに由来することは、言葉の姿からも分かりますね。
このラテン語は、「文字を書くこと」「著作物」「文献」あるいは「アルファベット」「文法」、そして「学問」「学識」という意味を持つ言葉でした。文字という表現に関わることであり、その分野やジャンルを狭く限定する概念ではなかったのです。ですから、上記のように「サイエンス」の同義語として「リテラチャー」が掲げられていることに不思議はありません。
ただし、そこでも述べられているように、「リテラチャー」は「文字で書き記されたもの」が広く含まれますから、必ずしも「学問(サイエンス)」に限定されるとは限らないというわけです。それが後世、「サイエンス(科学)」と「リテラチャー(文学)」を対立するもののように捉えるようになってしまったのはどうしてか。根深い問題です。
そして最後に「アート」の説明に移ります。ご覧いただくと分かりますが、三つの類義語の中でも「アート」に費やされている文字が最も多くなっています。見てみましょう。
「アート」は、実演における実行や技能にかかるものだ。「学では、知ルタメニ知リ、術では、ツクルタメニ知ル。したがって、「サイエンス」と「アート」は真理の探究であると言えるだろう。しかし、「サイエンス」では、知識のために探究するのに対して、「アート」では制作のためにそうする。つまり、「サイエンス」はいっそう上位の真理に関わるものであり、「アート」は相対的に下位の真理に関わるものである。また、「サイエンス」は、「アート」のように生産への応用にはけっして関わらない。したがって、「サイエンス」の最高に完全な状態とは、最も高度かつ正確な探究であろう。対する完璧な「アート」とは、最も適切かつ効果的な規則の体系であろう。アートとは、常に自らを規則という形にするものなのだ。」
カールスレイク
(『ウェブスター英語辞典』、1913年版、SCIENCEの同義語)
ここは少し込み入っていますので、読み解きは次回といたします。一つだけ先に言うと、2文目からが引用文になっており、その冒頭には、あの西先生が引用していたラテン語交じりの一文が現れていますね。